「基本動詞ハンドブック」とは

コミュニケーションの基本単位となる文の骨格を決める重要な要素の一つが述語としての動詞です。日常生活でよく使用される基本動詞のほとんどが、複数の意味をもつ多義動詞で構成されていますが、このような現象は日本語だけでなく、世界中の言語に広く見られます。

多義動詞には、まず中心となる意味(中心義あるいは基本義)があり、そこから様々な意味が派生されます。例えば、動詞「上がる」には、「上の方への物理的な移動」という中心義があります。「屋根に上がる」、「ステージに上がる」というときの「上がる」は、「より高いところに移動する」という中心義です。この中心義から、水中からの移動(「風呂からあがる」)、家の内部への移動(「人の家に勝手に上がる」)、訪問(「お届けにあがりました」)などの意味が派生しますが、まだこれらの意味では、物理的移動を表すという点は中心義と共通しています。しかし、次の段階になると、もはや物理的な移動は表さなくなります。例えば、数量の増加(「消費税が上がる」)や、レベルの上昇(「評価が上がる」)では、物理的な移動は見られず、「基準よりも増える(=上になる)」という点で中心義とつながっています。さらに、緊張するという意味の「人前であがる」という表現の背後には、「心が上方に移動することは、心が不安定な好ましくない状態になる」という捉え方が存在します。

基本動詞ハンドブックは、日本語学習者・日本語教師が基本動詞の理解を深めることができるように、このような基本動詞の多義的な意味の広がりを図解なども用いて分かりやすく解説したオンラインツールです。また、例文、コロケーションなどの執筆には、国語研の「現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)」(約1億語)や筑波大学の「筑波ウェブコーパス」(約11億語)などの、大規模日本語コーパスを積極的に活用し、他のレファレンスには見られない生きた情報を提供しています。

本ハンドブックは、プラシャント・パルデシがリーダーを務める国語研の2つの共同研究プロジェクトの成果です。ハンドブックのプロトタイプ版は、独創・発展型共同研究プロジェクト「日本語学習者用基本動詞用法ハンドブックの作成」において作成し、今回の公開版は、そのプロジェクトを引き継いだ基幹型共同研究プロジェクト「述語構造の意味範疇の普遍性と多様性」のハンドブック班がその制作にあたっています。オンラインシステムの設計・開発は、Lago言語研究所(赤瀬川史朗)が担当しています。