売るのコアイメージ

1.ものの譲渡他動詞初級★★★
表記売る
金銭と引き換えに相手にものを譲る。
文型
<売り手>が<品物>を<買い手>に売る
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
着なくなった衣類をリサイクルショップに売った
車を売ったので電車通勤を始めた。
パン屋は一日で千個のあんパンを売った
フリーマーケットで、出品した品物を全部売ってしまった。
要らなくなった本を友達に売った
あの人は、商品を売るコツを知っている。
コロケーション
<売り手>が
(人名)、(店名)、(社名)、売り子
<品物>を
もの、本、車、家、服、商品、土産、パソコン、ケーキ
<買い手>に
人、店、企業、外国
<場所>で
リサイクルショップ、フリーマーケット、ネット
<金銭>で
〜円
非共起例
<売り手>が
 コンビニが医薬品を売っている。
 コンビニで医薬品を売っている。
<(売り手のいる)場所>は「が」を付けにくい。
<買い手>へ
 衣類をリサイクルショップへ売った。
 衣類をリサイクルショップに売った。
物体の移動ではなく所有権の移動であるため、「へ」は使いにくい。
解説
現代の日本では、個人商店が減って、個人が小さな品物を現金で売ることが少ないため、用例に現れる<品物>は土地、株、自動車など額の大きいものとなることが多い。この場合、<売り手>は個人だけでなく、企業などの組織もよく見られる。一方、個人が小さな品物を売るときは中古品を安価で売ることが多い。
誤用解説
品物の譲渡に金銭が介在しない場合は「売る」と言えない。
 友人にただで本を売った。
 友人にただで本を譲った。
また、身内への譲渡の場合は、金銭が介在していても「売る」を使いにくい。
 姉に5千円で電子レンジを売った。
 姉に5千円で電子レンジを譲った。
類義語・反義語
類義語売却する
反義語買う


2.譲渡のためのものの陳列他動詞初級★★★
表記売る
金銭と引き換えに譲るために、ものを相手の目につく場所に置く。
文型
<販売所>で<品物>を売る
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
この本は生協で売っています。
今週は新譜のCDでも10%オフで売っている。
アラビア語配列の外付けキーボードは日本で売っていますか?
この本を売っているお店を知っていますか?
まさかこんな物を日本で売っているとは思わなかった。
彼女のデザインした服はインターネットでも売っている。
コロケーション
<販売所>で
店、スーパー、デパート、駅、日本、外国、ネット
<品物>を
本、服、コンピュータ
<金額>で
〜円、低額
非共起例
<販売所>で<売り手>が
 この本は生協でパートのおばさんが売っている。
 この本は生協で売っている。
 この本はパートのおばさんが売っている。
売り手を明示すると、「売られている」という状態ではなく、「売っている最中」という活動の意味(=語義1)になる。
解説
「〜ている」など、状態性をもった表現が多く、意味的には「売られている」という受動態に近い。<販売所>が<売り手>に相当するため、具体的な売り手は不特定となる。また、<買い手>も不特定となるため表現されないことが多い。
口語では「<品物>が売っている」という自動詞用法がある。例:「専用のケーブルが売っています」(Yahoo!知恵袋, 2005, インターネット、PCと家電)、「どの商品がどの時点で売り終わったかまでしっかり見て、仮説が正しかったかどうかを確かめる」(勝見明著 『鈴木敏文の「統計心理学」』, 2002, 6 産業)
誤用解説
通常、品物が陳列されている状態を指すため、「〜ている」などの状態表現なしで用いるのは難しい。
 この本は生協で売った。(本の著者の発言であれば語義1として○)
 この本は生協で売っていた。
類義語・反義語
類義語販売する
反義語


3.空間の譲渡他動詞初級★★★
表記売る
金銭と引き換えに相手に空間を譲る。
文型
<売り手>が<空間>を<買い手>に売る
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
一戸建ての家を売ってマンションを買った。
親から相続した土地を業者に売ることにした。
転勤が決まったのでマンションを売らなければならない
A社はビルを売って経営難を乗り切った。
近くの大きな商業施設が駐車場を広げたいとのことで、畑を売った
裏山を売ったらどうだろうか?
コロケーション
<売り手>が
(人名)、(社名)、(国名)
<空間>を
家、マンション、ビル、土地、山
<買い手>に
(人名)、(社名)、(国名)
<金額>で
〜円、低額、破格
非共起例
<買い手>へ
 余っていた土地を市へ売った。
 余っていた土地を市に売った。
譲渡される<空間>が移動しないため、「へ」は語義1よりもさらに使いにくい。
解説
<空間>は移動しない「品物」であるため、この場合の「売る」は所有権の譲渡を表す。
誤用解説
語義1(生協が学生に本を売る)に対する語義2(この本は生協で売っている)のような用法はない。
 その土地は隣町で売っている
 そのマンションは駅前で売っている
類義語・反義語
類義語販売する
反義語買う、購入する


4.債券の譲渡他動詞中級★★
表記売る
金銭と引き換えに相手に債券を譲る。
文型
<売り手>が<債券>を<買い手>に売る
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
今ユーロを売るのは損ですよ。
あの老人が持ち株を売った相手を知っていますか?
当分アメリカに行く予定もないので、帰国時に空港でドルを売った
青春18切符を金券ショップに売った
大量の仮想通貨を売った
コレクターに珍しい切手を売った
コロケーション
<売り手>が
(人名)
<債券>を
株、外貨、国債
<買い手>に
(人名)、金券ショップ、コレクター
<為替相場>で
一ドル百円
非共起例
<買い手>へ
 切符を金券ショップへ売った
 切符を金券ショップに売った
位置の変化よりも所有権の移動を表すため、「へ」は使いにくい。
解説
「米ドルを売って円を買う」というのは、所有している米ドルを円に両替するということである。
誤用解説
両替の場合は、利益が生じる売買ではないため、通常<買い手>が明示できない。
 空港で両替所にドルを売った。
 空港でドルを売った。
類義語・反義語
類義語売却する
反義語買う


5.アピール他動詞中級★★
表記売る
人やものの評価を向上させるよう努める。
文型
<人>が<もの[ものの部位・属性]>を売る
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
市長候補が街頭で名前を通行人に売り込んだ。
彼女は美貌を武器にあちこちに顔を売って歩いて、営業成果のアップに努めている。
今のうちに多方面に顔を売っておいたほうがいいよ。
様々な慈善事業に関わることで名前を売ろうとする政治家がよくいる。
健康なイメージを売り出すことで、若い女性の購買層も増えるのではないか。
その新人アイドルは高学歴を売っていくつもりだ。
コロケーション
<人>が
(人名)、アイドル、候補者
<もの[ものの部位・属性]>を
名、名前、顔、男
<人>に
あちこち、多方面、通行人
非共起例
<人:非集団>に
 5人の通行人に顔を売る。
 たくさんの通行人に顔を売る。
通常、売る相手は多人数であるため。
解説
社会や特定の層の人々に広くアピールする場合が多い。
「売り出す」や「売り込む」といった複合動詞で使われることが多い。
誤用解説
<対象>が受動文の主語になることはないようである。
 多方面に顔が売られた
類義語・反義語
類義語アピールする
反義語


6.見返りの期待他動詞中級★★
表記売る
見返りを期待して相手の利益になりそうな働きかけを行う。
文型
<人>が<人>に<恩・媚・情け>を売る
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
課長が食事代を払って部下に恩を売った
ダメ社員がお世辞を言って上司に媚を売った
将来のために情けを売っておく。
日頃から部下に恩を売っておいて、いつか困った時に助けてもらおう。
アメリカに媚を売るようなやり方は嫌いだ。
いくら媚を売っても、あの人は実力主義だから無駄です。
stairs私はいい生徒です!って媚び売ってるようにしか見えないし。
コロケーション
<人>が
(人名)、(国名)、上司、部下
<人>に
(人名)、(国名)、部下、上司
<恩、媚、情け>を
恩、媚、情け
非共起例
<恩、媚、情け>を<人>に
 媚を上司に売った。
 上司に媚を売った。
「〜を売る」でほぼ慣用句になっているため、間に「〜に」を入れにくい。
解説
相手に対し、一方的に感情を揺さぶる働きかけを行うことを表す。恩や情けのように一般に目下に働きかける場合と、媚のように目上に働きかける場合がある。「〜を」に来る名詞は限られている。
誤用解説
<恩、媚、情け>が受動文の主語になることはない。
 相手に恩[媚]が売られた。


7.禁断の譲渡他動詞上級
表記売る
相手に本来譲るべきでないものを譲ることで、その対価として利益を得る。
文型
<人>が<人・もの>に<大切なもの・人>を売る
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
ユダは主を銀貨30枚で売った
一部の人間がわが国の情報を敵国に売った
少年はマフィアに心を売ってしまった。
彼は、仲間を売って自分だけ助かろうというような奴ではない。
祖国を売ろうとする者たちは断固排除すべきだ。
彼女は悪魔に心を売ったというより、自分が悪魔と化してしまったようだ。
stairs仲間を売るくらいなら、死んだ方がましだ。
コロケーション
<人>が
(人名)、(国名)、(社名)
<人・もの>に
悪魔、敵
<大切なもの・人>を
国、仲間、機密情報、心、魂、誇り、命
<対価>のために
金、名誉、私欲、保身、家族
非共起例
<もの・人>を<大切な人・もの>に
 心を悪魔に売った。
 悪魔に心を売った。
ものによっては「〜を売る」でほぼ慣用句になっており、その場合は「〜を」と「売る」の間に「〜に」を挟むと不自然になる。
解説
仲間や善良な心など極めて大切なものを諦め、私利私欲に屈することを意味する。
複合動詞「売り渡す」を用いると、譲渡が100%であることが強調される。
悪魔に魂を売り渡した。
誤用解説
<大切なもの・人>は受動文の主語にしにくい。
 彼は魂が悪魔に売られた。
 祖国が敵国に売られた。
 機密情報が敵国に売られた。


売るの全体解説 各語義の解説をご覧ください。
























▶全例文を聞く
<売り手>が
何より、生産者が直接売っているので、安心して買うことができます。
(市政だより青葉区版, 2008, 宮城県)
「これさあ、がこの本屋に売った本なんだよね」
(田中栞著 『古本屋の女房』, 2004, 024)
<品物>を
自分の野菜を自分で売ることは、農家にとって農家として自立することであったのかもしれない。
( 『日本の宝=水田を生かして新しい産地づくり』, 2005, 611)
<買い手>に
ネパールのポカラでは、湖畔の脇の路上で難民の少女が、観光客に土産物を売っていた。
(長岡洋幸全撮影・文 『チベットの夜空の下で眠りたい』, 2002, 292)
<場所>で
現在病気で働くことができないのでオークションで私物を売って小銭を稼いで生活しています。
(Yahoo!知恵袋, 2005, Yahoo!オークション)
<金銭>で
先生の本を読みたがっていた友人に早速三冊三百円で売ろうとしたら、百円以上払う気はないといわれ、困っています。
(土屋賢二著 『紅茶を注文する方法』, 2002, 104)
<販売所>で
スーパーで売られているレモンや果物も、日本でできたものは少ない。
(下重暁子著 『シンプルのすすめ』, 2002, 159)
<品物>を
神奈川県、または東京都でソフトボールに必要な道具を売っている店を教えてください。
(Yahoo!知恵袋, 2005, スポーツ)
<金額>で
私たちは高級ブランドの商品を安い値段で売っています。
(曽根田憲三,ブルース・パーキンス共著 『海外から商品を買うときの英語表現集』, 2003, 670)
<売り手>が
ミュンヘンのさる大工業家一族がニンフェンブルクの瀟洒な邸宅を売って、その代金十万マルクを「金引換券」に振り込んでいたのである。
(種村季弘著 『偽書作家列伝』, 2001, 914)
USXが身売りし、エクソンが本社ビルを売る。
(大森実著 『恐慌が迫る』, 1987, 332)
<空間>を
発注主は池袋の自転車屋で、自宅のを駐車場用に売った金で、別荘を建てることにしたらしい。
(高樹のぶ子著 『彩雲の峰』, 1995, 913)
<買い手>に
実家の両親が築25年の家を隣人に売りたいらしいのですが不動産屋を通さずに直接やり取りするのにだれに相談すればよいでしょうか?
(Yahoo!知恵袋, 2005, 家事、住宅)
日本人に土地や建物を売ってもうけているアメリカ人だっているはずです。
(蓉子・A.ワイルス著 『日日のアメリカ』, 1990, 302)
<金額>で
知人が115坪の土地を500万で売ってくれると言うのですがどう思いますか。
(Yahoo!知恵袋, 2005, 家事、住宅)
<売り手>が
ぼくが株を売って、誰かに喜んでいただけるのであれば、それもまた幸せです。
(水澤潤著 『日本一の大投資家が語る大貧民ゲームの勝ち抜け方』, 2003, 338)
<債券>を
ある日に買ったドルを一週間後に売って、大もうけする人もいれば、値動きを読み誤って大損をする人もいます。
(泉美智子著 『調べてみようお金の動き』, 2003, 337)
<買い手>に
債権も財産ですから、債権者は債権を他人に売ることもできます。
(北河隆之監修 『55分でわかる借金整理と個人破産』, 2004, 324)"
<為替相場>で
135万円をつけた株を同じ日に111万円で売った人は、相当に痛い思いをしたのではないでしょうか。
(北浜流一郎著 『得意株つくって楽に儲けよう』, 2004, 338)
<もの[ものの部位・属性]>を
目的は、軍事顧問として政治家たちにを売り、そこから最高司令官へと飛躍することであった。
(ポール・ジョンソン著;富山芳子訳 『ナポレオン』, 2003, 289)
<人>に
田原構治といえば、今ではマスコミにも名を売ったカメラマンである。
(連城三紀彦著 『恋文』, 1984, 913)
<人>が
香川が好美と奈々に媚びを売った。
(綺羅光ほか著 『背徳』, 2003, 913)
<人>に
一般庶民に媚を売る必要なんてさらさらない。
(ビートたけし著 『だから私は嫌われる』, 1991, 304)
マッカーサーは、天皇陛下を救ったことで、吉田に恩を売ったのかもしれない。
(片岡鉄哉著 『さらば吉田茂』, 1992, 210)
<恩・媚・情け>を
こうやってを売っておけば、選挙のときに票になって返ってくるからである。
(ファブリジオ・カルビ著;小林修訳 『マフィアの帝国』, 1991, 368)
<人>が
伊藤律が尾崎を売った」との噂がでてくるのは、そのあとのことである。
(鎌田慧著 『反骨』, 1989, 289)
<人・もの>に
ユダは師のイエスを憎み、嫉妬し、逆うらみをくり返して、ついにに売る。
(山折哲雄著 『悪と往生』, 2000, 188)
<大切なもの・人>を
二人の報告では、あなたは祖国を売った裏切り者だそうだ。
(逢坂剛著 『燃える蜃気楼』, 2003, 913)
<対価>のために
富める者たちは「正しい者をのために売り、貧しい者を靴一足のために売る」(アモス書二6)。
(並木浩一著 『旧約聖書における文化と人間』, 1999, 193)






























私はいい生徒です!って媚び売ってるようにしか見えないし。
仲間を売るくらいなら、死んだ方がましだ。
体[身体・身]を売る

意味
<金銭>と引き換えに、自分自身を性的欲求を満たすためのサービスの手段として提供する。売春行為。「体を売る」は本人の意思のあるなし両方可能であり、一時的な場合もあるが、「身を売る」は本人の意思に反して、娼館(近代以前の遊郭)などで長期契約を結ぶことを主に指す。
用例
少女たちが生活のために身を売る必要のない世界を望む。
コーパスからの用例
不幸にも家が貧しくて、身を売らなければならなかった女性が数多くいました。 (Yahoo!知恵袋, 2005, 一般教養)
売るほどある

意味
売るための<品物>ではないが、数多く所有している。例えば高級ブランドのバッグを一人で何十も持っているときに、ユーモアの感覚または揶揄する意図をもって言う。抽象的な<品物>にも使える。
用例
暇なら売るほどある。
油を売る

意味
おしゃべりなどをして時間を(少なくとも第三者から見ると)無駄に過ごす。
用例
油を売っていないで早く帰ってきなさい。
コーパスからの用例
「ゆっくりだったじゃないの、キョンと有希。どこで油を売ってたの?」 (谷川流著 『涼宮ハルヒの陰謀』, 2005, 913)
夢を売る

意味
具体的・実質的な<品物>を売るのではなく、娯楽を提供して<金銭>を得ることを遠回しに言う。例えば、芸能人は「夢を売る」職業であるなどと言われることがある。
用例
彼女は遊園地で夢を売っている。
コーパスからの用例
デパートは夢を売る商売である。 (浅田次郎著 『椿山課長の七日間』, 2005, 913)
喧嘩を売る

意味
他人を挑発して、喧嘩を行うようにしむける。「争いを売る」などは言わないので、慣用句的な性質が強い。
用例
それって、私に喧嘩を売っているんですか?
コーパスからの用例
まるで喧嘩を売っているような声だった。 (柴田よしき著 『宙都』, 2001, 913)
複合動詞 V1

売り買う、売り返す、売り進む、売りまくる、売り始める、売り出す、売り尽くす、売り切る、売り切れる、売り続ける、売りつける、売り込む、売り払う、売り渡す、売り飛ばす、売り上げる
複合動詞 V2

叩き売る、投げ売る
複合名詞

叩き売り、投げ売り、切り売り、量り売り、空売り、身売り、売れゆき
売る(1グループ)の活用 ▶活用を聞く
アクセント型平板型
辞書形うる
ない形うらない
~なかったうらかった
ます形うり
~ませんうりま
~ましたうりした
~ませんでしたうりまんでした
~ときうるとき/うる
ば形
意向形
て形うって
た形うった
可能形うれる
受身形うられる
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