1.状態を保留中級★★
表記ておく
手を付けず放置して今ある状態をそのまま続ける。
文型
<物>を<保存や放置の行動>ておく
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
彼は最後まで大切に取っておいた父から譲り受けた万年筆を取り出した。
海外に赴任する時に日本に残しておく物を選別しよう。
「そんなに大事な物なら蔵にでも大切にしまっておくんだな」
パソコン画面をしばらくそのままにしておくと、スクリーンセーバーが動き出す。
「その病気をいつまでもほうっておくとえらいことになりますよ」
「文句を言いたい奴には勝手に言わせておけばいいさ」 
コロケーション
<保存や放置の行動>ておく
のこす、しまう、置く、放置する、保存する
解説
例文の1〜5に見られるように、<物>を<保存や放置の行動>ておく、という文型が典型的だが,他にも、<人>(に)は<使役の行動>ておく、の形もある。例えば、
 太郎はほめて喜ばせておけば良いんだ。
 飲みたい人(に)は飲ませておこう。


2.一時的に対処中級★★
表記ておく
当座の処置として一時的に行動する。
文型
<人>が<行動>ておく
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
「今度面白いイベントがあるんだって。一緒に行かないか」「考えておくよ」
「もし花子に君の事を聞かれたら、僕がうまいこと言っておくよ」
遅れて提出されたレポートは一応預かっておくが、点数の保証はしない。
こんな時は黙っておくに限る。
「たまには家業の手伝いでもしておこうか
「市民の意見も、せめて聞くだけは聞いておかれたほうがよろしいのではないでしょうか」
stairsとりあえず様子を見ておいたほうがいいよ。
コロケーション
<行動>ておく
考える、伝える、預かる、黙る、聞く
<様態>
しばらく、ちょっと
解説
動詞の行動を一時的にするだけで、その行動に対して特別考慮もしないし、行動の後の結果も含意しない。このような意味は、また「<行動する>だけは<行動する>ておく」の文型で典型的に現れる。
 聞くだけは聞いておく。(=話は聞くけれども後は知らないし関係ない。)
誤用解説
<人>を目的語に取らない行動を表す動詞と共起する傾向がある。
 ほめられたら喜んでおけばいいんだよ。
<人>を目的語に取る使役の意味を持つ動詞と共起する場合は、この語義2の「一時的な対処」の意味を表さない。
 ほめて喜ばせておけば良いんだよ。(語義2「一時的な対処」の意味の場合)
但し、語義3の「状況を保留」の意味では適切になる。


3.結果を保存初級★★★
表記ておく
行動した動作の結果を残す。
文型
<物や事>を<記録や記憶に関わる行動>ておく
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
大事な事をメモしておいた
「今日話し合ったことをまとめておいて下さい」
議論した内容はすべて記録しておく事が肝要です。
分析に使った全てのデータをハードディスクに残しておくのは当然の手順だ。
大事な資料は整理しておくように心がけている。
「私の話した事を記憶の隅にでも留めておいて下さい」
コロケーション
<物や事>を
大事な事、内容、データ、資料、話した事
<記録や記憶に関わる行動>ておく
書く、まとめる、記録する、整理する、心に留める、覚える、暗記する


4.事前の準備中級★★
表記ておく
後に起こる事柄に関連した準備的行動を,前もって行う。
文型
<行動>ておく
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
訪問する前には相手先に電話をしておくほうが良いだろう。
「明日は絶食です。今晩8時までに食事を済ませておいて下さい」
「来月彼女の誕生日だね。今からプレゼントを選んでおこうかな」「それがいい」
防災キットなどは普段から備えておけば、いざという時に困りません。
「支払いはしておきましたので、留守中商品を受け取っておいてもらえせんか?」「いいですよ」
実験時間短縮のため、学生達にはあらかじめ手順書を読んでおかせた
stairsどんなことをしておくとよいのでしょうか。
コロケーション
<様態>
予め、事前に、先に、今から、1時間前には、1時までに


Vて-おくの全体解説 「ておく」は、「(動詞の語幹)テ+置く」からできている。人間の行なう自然な一連の行動「①物を手に取る+②物を持っている+③物を場所に存在させる+④物から手を離す」という各行動から構成される出来事構造のうち、「置く」は特に③および④の部分の出来事構造を下敷きに出来ている。なお「ておく」の形は、例えば「食べておく」が「食べとく」、「読んでおく」が「読んどく」のように「トク」「ドク」と短く発音されることが可能である。
語義1では、「取る」「買う」「隠す」などの、物をとりあつかう意味を持つ動詞のテ形と共起する。③の物をある場所に存在させた後に、④の手を離すという事態が転じて、手を離したその物にはしばらく触れない、使用しない、考慮の対象としない、放置するという意味が現れる。他動詞「置く」の語義14の「放置」、15の「物を残す」と関連がある。放置されるので、そのままの状態が一時的ではなく比較的長く続く事が予想される。例えば、
 もらった万年筆を大切にとっておいた
のように、手に取った物をある場所に置いて、後はそれをそのまま放置しているので、万年筆は長期間そこにあり、かつ使われていないことが含意される。
語義2は、「考える」「伝える」「黙る」等の思考や発話に関わる抽象的な動詞のテ形と共起して、当座の処置として、ひとまず動詞の行為をする意味を表す。語義1から派生しているが、語義1では、例えば「取る」という行動の結果の状態は比較的長時間そのまま残っていたが、この語義では「しばらく」「ちょっと」などの一時的な時間を表す副詞と共に現れて、例えば考えておくの「考える」という行為はあくまでも一時的な状態であり、ひとまずはその状態であるという意味を表している。また一時的に考えた結果が後々考慮・利用されることはなく、そのまま放置されることになる。従って考えておくのような表現は、婉曲的な「断り」の表現としても定着している。
 しばらくテレビでも見ておくか。
 いま料理を準備しているから、これでも飲んでおいて
 一応考えておくよ。
語義3は「録音する」「整理する」「記憶する」など、記録をとったりまとめたりするような作業の意味を持つ動詞、または記憶の動詞等のテ形と共起する。これも語義1から派生しているが、作業結果(例えば録音した音声や整理した書類、記憶した内容など)はその後長期間、継続的に存在し続けることが含意される。意図的に記録を存在させる作業の結果は、後々参照するなど再利用される可能性が十分に見込まれるので、放置の意味よりは作業結果の残存を意味することになる。
語義4は、語義3からさらに派生した語義と考えられる。未来におこる事態を予想した上で、前もってその事態に関わる行為を準備・実施する、という意味である。従って「あらかじめ」「事前に」「先に」「今から」「1時間前には」等の時間表現が共起しやすく、準備した行為の結果がそのまま残存することで、後から起こる事態に備える事ができることが表現される。十分なコンテクストさえ与えられれば幅広い動詞と共起してこの意味を表すことができ、非常に生産的な表現である。
 「事前に着替えをしていただきますので30分前には来ておいて下さい」
 「全員が揃わなくても8時には食事を始めておいて下さい」
 「明日は忙しいよ。今晩はしっかり休んでおかないといけないね」
























▶全例文を聞く
<保存や放置の行動>ておく
果肉をとり出した皮もとっておく。
(ジュディ・バスティラ,ジュリア・カニング著;野間けい子訳 『フルーツ』, 1989, 596)
小さな水漏れでも放置しておくと大きな無駄になります。
(広報きさらづ, 2008, 千葉県)
<行動>ておく
とりあえず、支店長に現状を報告しておこう。
(黒木亮著 『トップ・レフト』, 2000, 913)
購入はまだ先なのですが、一応プランをたてておきたいので。
(Yahoo!知恵袋, 2005, 自動車)
<様態>
今後はしばらくそっとしておいたほうが良いでしょうか?
(Yahoo!知恵袋, 2005, 恋愛相談、人間関係の悩み)
<物や事>を
そこで、報告を読んで二、三、気のついたことを書き留めておこう。
(兼康保明著 『考古学推理帖』, 1996, 210)
<記録や記憶に関わる行動>ておく
自分でたしかめたいことをメモしておき,最後にまとめて質問する。
(新編 新しい社会 5上, 2006, 小)
<様態>
オーブンをあらかじめ180℃に熱しておく。
(ブリジェット・ジョーンズ,ローラン・ドゥシェーヌ共著;ル・コルドン・ブルー東京校訳・監修 『ル・コルドン・ブルー・デザート・テクニック』, 1999, 596)
事前にみどりの窓口等でチケットを購入しておいた方がいいです。
(Yahoo!知恵袋, 2005, 国内)






























とりあえず様子を見ておいたほうがいいよ。
どんなことをしておくとよいのでしょうか。
複合名詞

とっておき
Vて-おく(1グループ)の活用
アクセント型平板型
辞書形て-おく
ない形て-おかない
~なかったて-おかなかった
ます形て-おきます
~ませんて-おきません
~ましたて-おきました
~ませんでしたて-おきませんでした
~ときて-おくとき
ば形て-おけば
意向形て-おこう
て形て-おいて
た形て-おいた
可能形て-おける
受身形て-おかれる
使役形て-おかせる
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