叩くのコアイメージ

1.打撃他動詞初級★★★
表記叩く
人が、手や物の一部を、身体部分や動物や物に、(繰り返し)すばやく当て、衝撃を加える。
文型
<人>が<身体部分・動物・もの>をたたく
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
突然、玄関の戸をたたく音がした。
昔はよく先生に尻をたたかれたものだ。
子どもの時、帰宅した父はいつも私に肩をたたかせた
今、本堂で木魚をたたかれているのはご住職ですか。
ドアをたたこうとしたら、ちょうど中から人が出てきた。
鶏肉は調理する前にたたくと、柔らかくなります。
コロケーション
<人>が
親、教師、客、調理人、子どもたち
<身体部分>を
肩、尻、腕、頭、胸、頬
<動物>を
ハエ、ゴキブリ、もぐら、牛、蚊、象、馬
<もの>を
ドア、机、壁、太鼓、鐘、鍵盤、ふとん、肉、スイカ
<道具>で
ハエたたき、新聞紙、本、スリッパ、棒、手、指、包丁、札束
<様態>
強く、何度も、激しく、静かに、細かく、力任せに
非共起例
<もの>を
 ふとんをたたく
 カーテンをたたく
 シャツをたたいてしわを伸ばしてから、干した。
この語義の<もの>は、ある程度の大きさと厚みが必要であるため、薄い「カーテン」などは共起できない。ただし、<衝撃を加える>ということが特に示されれば、薄い物でも「たたく」を用いることができる。
解説
身体部分や物に対して、手や物の一部を当てて衝撃を加えることを表す。複数回当てることが多い。衝撃の強さはその意図によって様々である。「木魚」「太鼓」「手」「ドア」の場合、衝撃を加えることによって音を発することが期待されている。食材の「鶏肉」「魚」の場合は、それらを衝撃によって軟らかくする意図がある。また、「ハエ」「ゴキブリ」など、害虫と考えられるものに対しては、それらが絶命するほどの衝撃を加えようとしている。
まれに、雨が屋根などに落ち、音を出す現象を、「雨が屋根をたたく」と表現することがある。
誤用解説
 みぞおちをたたかれて、顔をゆがめた。
 みぞおちをなぐられて、顔をゆがめた。
「たたく」は、手や物の一部が対象物の表面と接触する必要がある。「みぞおち」は胸部と腹部間の内部にある急所であるため、直接接触することはない。拳を使い、腹部内までのダメージを表す「なぐる」であれば可能である。
類義語・反義語
類義語殴る、ぶつ、打つ、はたく
反義語


2.攻撃他動詞中級★★
表記叩く
軍隊が敵地を攻撃し、損害を与える。
文型
<軍>が<場所>をたたく
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
先に敵の補給路をたたいておくべきだ。
正規軍を温存するために、まずは義勇軍に砦をたたかせよう
何か月もゲリラの陣地をたたいているのだが、なかなか鎮圧できないでいる。
この先にある飛行場はすでに空挺部隊がたたいてあるので、警戒の必要はありません。
敵が援軍を呼べなくするように、まず通信施設をたたこう
抵抗する町は一つ一つたたくしかないだろう。
コロケーション
<軍>が
空軍、部隊、精鋭、空母、国
<場所>を
国、飛行場、港、町、基地、陣地、補給路
<様態>
次々に、確実に、徹底的に、一気に、完膚なきまで
<手段>で
一斉掃射、空爆、総攻撃、大砲、戦闘機
非共起例
<軍>が
 潜入した秘密工作員が城塞をたたいた
 進攻した戦車部隊が城塞をたたいた
攻撃は大規模でなければならず、少人数の軍人による攻撃には用いられない。
<軍>が
 ミサイルが敵の地下施設をたたいた
 空軍が敵の地下施設をたたいた
「ミサイル」は軍隊ではなく、武器であるため。
<場所>を
 爆撃機が敵国の平野部をたたいた
 爆撃機が敵国の都市部をたたいた
攻撃の対象となる敵地は、戦略的に重要な地点でなければならない。
解説
この語義は、語義1の主体<人>が<軍>になり、<衝撃>が<攻撃>に拡張することによって成り立っている。語義1では<衝撃>の強さの程度は目的に応じて様々であったが、この語義の<攻撃>の程度は、非常に甚大である。
誤用解説
結果状態を表す場合は、通常「たたいてある」を用いる。
 昨夜のうちに敵の前線基地はたたいている
 昨夜のうちに敵の前線基地はたたいてある
類義語・反義語
類義語攻める、攻撃する、破壊する
反義語


3.批判他動詞中級★★
表記叩く
組織が、公的な場やメディアで、特定の個人や組織を言論により痛烈に傷めつける。
文型
<人・組織>が<人・組織>をたたく
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
不祥事を起こした芸能人が、テレビでさんざんたたかれていた
疑惑を週刊誌にリークして幹事長をたたかせたのは、首相の秘書官らしい。
週明けのトップニュースで検察をたたこうとしたら、上層部からストップがかかった。
新聞各紙は、連日、大臣の失言をたたいているが、大臣本人は一向に気にしていない。
業績悪化により、総会で株主にたたかれた社長は、その場で辞意を表明した。
代議士一人の収賄をたたいたところで、政界のゆがんだ仕組みは変わらない。
stairsお父さんみたいな普通の人でもネット上で知らない人から叩かれたりすることがあり得るんだよ。
コロケーション
<組織>が
新聞社、テレビ局、大衆、株主、野党
<人>を
政治家、社長、責任者、容疑者、教師、芸能人
<組織>を
企業、政府、事務所、学校、管理団体、宗教法人、チーム
<様態>
さんざん、容赦なく、連日、一斉に、ずいぶん
<場>で
テレビ、新聞紙上、インターネット、国会、公聴会
非共起例
<人>を
 いたずらっ子の太郎君が学級会でたたかれていた
 パワハラ疑惑の大臣が国会でたたかれていた
<人>には、ある程度、社会的知名度や影響力がなければならない。
解説
この語義は、語義1の主体<人>が<組織>になり、<衝撃>が<痛烈に傷めつける>に拡張することによって成り立っている。そして、語義1における<衝撃を加える対象物>は、ここでは<特定の個人・組織>となっている。また、<傷めつける>のは大勢の人に知らしめる形で行われる。
誤用解説
 学会で発表したとき、「その仮説には重大な欠陥があります」とたたかれた
 学会で発表したとき、「その仮説には重大な欠陥があります」と批判された
「たたく」は、その対象者の人格や行為を著しく否定するものであり、この例のように建設的な言論行為については用いられない。
類義語・反義語
類義語批判する
反義語


叩くの全体解説 各語義の解説を参照。
























▶全例文を聞く
<人>が
考えてみると、アメリカ人が握りこぶしでトントンと肩をたたいているのって見たことないですよね。
(飯室真紀子著 『日本人が必ず迷う・間違う英語の「壁」突破法』, 2001, 834)
しばらく経つと、こぎれいな服装をした中年女性が玄関のドアを叩いた。
(大森実著 『わが闘争わが闘病』, 2003, 289)
<身体部分>を
石黒は、ゴリラのように自分のを拳骨で叩いた。
(志茂田景樹著 『美雪総監と消えたクルーザー』, 1993, 913)
彼女は突然突進し,笑い,泣き,をたたき,髪をかきむしった。
(アッティラ・チャンパイ,ディートマル・ホラント編 『カヴァレリア・ルスティカーナ;道化師』, 1989, 766)
<動物>を
梅吉は頰にくいついたを叩き、蚊帳を吊ると言って腰を上げた。
(細谷正充編 『大江戸犯科帖』, 2003, 913)
タケシが、パイプで、つくえのうえの黒ヘビをたたいた。
(木暮正夫,国松俊英編 『ゆうれいねずみがささやいた』, 2003, 913)
<もの>を
ダンはまた黙りこみ、指でとんとんとテーブルを叩いた。
(寮美千子著 『楽園の鳥』, 2004, 913)
謙太郎はノートパソコンの前に座り込み、キーを叩いた。
(太田忠司著 『まぼろし曲馬団』, 2005, 913)
<道具>で
1.スズキはあらいみじん切りにした後、包丁で叩いてミンチ状にする。
( 『いきなり!黄金伝説。超節約レシピ50』, 2000, 596)
私は逆上して、平手でハルコさんの頭をペシャペシャ叩いた。
(たかはたけいこ著 『走り終わって考える』, 2005, 335)
<様態>
桜井は人の目があるにもかかわらず、思いっきり机を叩いた。
(彩院忍著 『電脳天使』, 1996, 913)
わたしはあわてて立ちあがって、木島さんの背中をぽんぽんたたいた。
(藤巻吏絵作;長新太画 『美乃里の夏』, 2004, 913)
<軍>が
当時オランダで吹き荒れていた議論は、まずオランダ軍が相手を叩いておいてから話し合いをした方がよいのか、それとも即刻話し合いをした方がよいのか、のどちらを選択するかに集中していた。
(アブラハム・パイス著;杉山滋郎,伊藤伸子訳 『物理学者たちの20世紀』, 2004, 420)
その前に戊辰の戦役がありまして、西南雄藩が東北諸藩をたたいた。
(日本放送協会編 『NHK歴史への招待』, 1990, 210)
<場所>を
日本を最後まで叩き、降伏させるべきだという意見がある事は知っています」
(竹内誠著 『太平洋最終決戦・不沈空母「硫黄島」』, 2002, 913)
…敵が海上にいるときは輸送船をたたき、海岸では上陸軍をたたく。
(半藤一利著 『聖断』, 2003, 210)
<組織>が
「これも、噂ですが、ある週刊誌が東名相互のことを手厳しく叩いたことがあるんです。
(西村京太郎著 『寝台特急「あさかぜ1号」殺人事件』, 2003, 913)
<人>を
時の権力者、有名人をたたいて、溜飲を下げる。
(データバンク21編 『一冊でわかる「論争地図」』, 2003, 304)
<組織>を
インターネットは登場した初期のころからバイオテクノロジー業界を叩いていた。
(ビル・ランブレクト著;柴田譲治訳 『遺伝子組み換え作物が世界を支配する』, 2004, 615)
<様態>
正直に言って、浩平はこれが世論によって厳しく叩かれ、裁判を不利に導くのではないかと懸念した。
(高木仁三郎著 『高木仁三郎著作集』, 2004, 408)
<場>で
そもそも警察がキッチリ取り締まらなくなったのは、その昔マスコミ報道で叩かれたせいでしょ?
(Yahoo!知恵袋, 2005, バイク)






























お父さんみたいな普通の人でもネット上で知らない人から叩かれたりすることがあり得るんだよ。
石橋を叩いて渡る

意味
何かを始めようとするとき、必要以上に慎重になる。
用例
兄は何をするにも石橋をたたいて渡るような性格で、無鉄砲な弟と正反対だ。
コーパスからの用例
どれだけ石橋を叩いても渡らない馬場さんが、なぜ馳を入団させ、藤原を参戦させたのか。(山本小鉄『いちばん強いのは誰だ』,1997,788)
叩けばほこりが出る

意味
人を追及すれば、必ずこれまでに行った悪事が見つかる。
用例
どんな政治家でも、叩けばほこりが出るものだよ。
コーパスからの用例
ここの住民の大半は、犯罪者かあるいは中国大陸から海を泳いで渡ってきた密航者なのだ。叩けばホコリが出る身体どころか、叩かなくともホコリだらけの身の上である。(宮崎学『アジア無頼』,1999,368)
膝を叩く

意味
わからなかったことの答えを得て、大いに納得する。
用例
彼はなぜそれほど尊大にふるまうのか、その経歴を知り、膝をたたいた
コーパスからの用例
私は前作、今作ともに自分の「経営」に対する思いを正直に書いてきました。結果として「耳の痛い経営者」もおられれば、「我が意を得たり」と膝を叩いた読者も大勢おられたのではないかと想像します。(林田俊一『赤字を黒字にした社長』,2001,335)
肩を叩く

意味
プロのスポーツチームや会社内で、管理職が人を解雇する。
用例
リストラの嵐が吹き荒れ、ついに俺も肩をたたかれた
コーパスからの用例
いま御指摘のように、任命権者が勝手にこれはきらいだから早く肩をたたいてやれというようなことは断じてないと、かように考えておるところでございます。(『第095回 国会議事録』,1981,9)
でかい口を叩く

意味
実際にはできそうもない大きい話をする。
用例
今週中に1000万円用意できるなんて、そんなでかい口をたたいて大丈夫なのか?
コーパスからの用例
「この街を抹消する?―でかい口を叩くじゃねえか」 と、大男が指を派手に鳴らしながら足踏みをした。(菊地秀行『魔界都市ブルース』,1996,913)
意味
自分は他者よりも優れているという発言をする。
用例
でかい口をたたくやつほど、いざというとき頼りにならない。
コーパスからの用例
彼は目を血走らせて私を睨むと、襟元を摑んできました。「作家がどういうものかもわからねえくせに、でかい口を叩くな」(東野圭吾『悪意』,2000,913)
減らず口を叩く

意味
自分には不足点やよくない点はないということを他者に認めさせようと、あれこれ発言する。
用例
「今日はたまたま調子が悪かった」なんて減らず口をたたいていないでさっさと練習しなさい。
コーパスからの用例
建物の外観を眺めただけで、彼女は空元気も失せてしまった。「へらず口を叩く元気もなくなったわ」(檜山良昭『消えた「亜細亜号」』,1992,913)
陰口を叩く

意味
本人がいないところで、その人の悪口を言う。
用例
彼は親のおかげで当選したのだ、と陰口をたたく人もいる。
コーパスからの用例
平民であって王族・貴族ではない。だから、フランス宮廷でカテリーナ王妃はいつまでも「フィレンツェの商人の娘」と陰口をたたかれていた。(桜沢琢海『料理人たちの饗宴』,2002,596)
無駄口を叩く

意味
必要のないおしゃべりをする。
用例
無駄口を叩いている暇があったら、仕事をしなさい。
コーパスからの用例
事務長の岡部とは、滅多に会うことがない。 浅黒い厳つい顔にレンズが黄色の眼鏡をかけ、無駄口を叩かず、滅多に笑顔を見せることがない。(伊野上裕伸『特別室の夜』,2004,913)
利いた風な口を叩く

意味
自分はそのことについては何でも知っているというように話す。
用例
何も知らないくせに、利いた風な口をたたくな。
コーパスからの用例
「…つまり、仁科さんもお役人だったってことね」ユカが利いた風な口をたたくと、髭面がジロリと彼女をにらんだ。(辻真先『怪盗天空に消ゆ』,1994,913)
憎まれ口を叩く

意味
相手に、自分に対する怒りや嫌悪感を感じさせる発言をする。
用例
この年頃の子はわざと憎まれ口をたたいて、人にかまってもらおうとするものです。
コーパスからの用例
「まあ、見てくれはいいけれど、屋根材としての機能を考えたら、瓦のほうがずっと優秀なんですがねぇ」年配の瓦職人がそんな憎まれ口をたたく。(武内孝夫『メイド・イン・にっぽん物語』,1996,602)
複合動詞 V1

たたき割る、たたき壊す、たたき折る、たたき切る、たたき込む、たたき始める、たたき終わる、たたき続ける、たたきまくる、たたき合う、たたき出す、たたきつける、たたき売る
複合動詞 V2

打ちたたく、買いたたく
複合名詞

袋だたき、肩たたき、蝿たたき、布団たたき、もぐらたたき、たたき売り、たたき台、たたきあげ
叩く(1グループ)の活用 ▶活用を聞く
アクセント型起伏
辞書形
ない形たたない
~なかったたたなかった
ます形たたき
~ませんたたきま
~ましたたたきした
~ませんでしたたたきまんでした
~ときくとき
ば形けば
意向形たた
て形いて
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