裂くのコアイメージ

1.分離他動詞中級★★
表記裂く、割く
人が、手などでものを両側から引っ張り、筋に沿って長く直線的に分かれるように二分する。
文型
<人>が<もの>をさく
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
出血を止めるため、着ていたシャツを裂いて腕を縛った。
被災直後、医療品不足のため、私の病院では看護師たちにシーツを裂かせて包帯の代わりにした。
さて出かけようというときに、ブラウスを釘に引っかけて裂いてしまった。
二股になった枝を手で裂こうとしたが、なかなか裂けなかった。
蒸したての鶏のささ身を手で裂いていたら、やけどしてしまった。
このチーズはどんどん細く裂くことができるのが特徴です。
コロケーション
<布地・紙>を
衣、布(きれ)、絹、着物、服、紙片、皮
<木・もの>を
葉、木、生木、竹、パン、岩
<身体部位>を
身、股
<道具>で
手、両手
<様態>に
二つ、縦、半分、三つ、千々、八つ、ビリビリ
非共起例
<もの>を裂く
①×皿を裂く
 皿を割る||||②×糸を裂く
 糸を切る[断つ]
①「もの」は、基本的に繊維質のもので、縦方向に直線的に分離する性質を有するもの
<道具>で裂く
 ハサミで裂く
 刃物で裂く(語義2)
基本的に両側に引っ張る力によって分離する。刃物の場合は語義2となる。
<様態>に裂く
 バラバラ[粉々]に裂く
 バラバラ[粉々]に割る||
 円形に裂く
 円形にちぎる||
 ビリビリに裂く[破く・破る]
縦方向、直線的に分離するという意味を持つため。
解説
「破る」「破く」に似ているが、主に両手で引っ張って布などの繊維に沿って直線的に分離させる。
また、<もの>には布や紙など薄い平面状のものか、木、枝などの棒状のものがくる場合が多い。
類義語・反義語
類義語破く、破る、割る、ちぎる
反義語


2.切開他動詞中級★★
表記裂く、割く
人が、刃物などでものを長く直線的に切って開く。
文型
<人・刃物>が<もの>をさく
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
最近、行きずりの男にカバンを刃物で裂かれる事件が多発している。
魚料理を作るため魚の腹を割こうとしたが、自分では怖くてできないので友人に裂かせた
貧しかったあの頃は、コッペパンを割いてジャムを挟んだものが何よりのごちそうだった。
辛うじてよけたナイフの刃先が皮膚を裂き、血がにじみ出た。
ライオンの鋭い牙が獲物の喉を裂いた
嵐の夜、暴風が吹き荒れ、稲妻が夜空を裂いた
コロケーション
<刃物>が
刀、ナイフ、切っ先
<光>が
光、雷、稲妻
<布・紙・もの・動物>を
衣、布(きれ)、絹、着物、皮、服、紙片、袋、うなぎ、鶏
<身体部位>
腹、胸、肉、身、体、口、喉、耳、腹部
<空間>を
天、地、空気、空間、山、闇、大地
<刃物>で
包丁、刀、ナイフ、カッター、かみそり、小刀、刃先
非共起例
<刃物>で
 紙をハサミで裂く
「紙をハサミで切る」が自然。「裂く」には「切る」にはない「開く」の意味が含まれるのでこの例文は不自然になる。ハサミの刃先をナイフのようにして使う場合は「紙をハサミで裂く」も言える。
解説
語義的に「切る」と似ているが、端から切り離していくのではなく、中途から刃物で切り開く。直線的な切り口に限る。「雷光が空を裂く」はメタファー表現
類義語・反義語
類義語切る、割る、破る、破く、裁つ、断つ、切開する
反義語


3.別離他動詞上級
表記裂く
人や出来事が、親密な関係にある人同士を引き離す。
文型
<人・出来事>が<関係>をさく
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
「私たちの間を裂こうとしても無駄よ。私たちの愛は永遠なの」
両親に恋人との仲を裂かれてしまった。
手下に命じて彼らの間を裂かせた
親友だった太郎と次郎の仲を裂く出来事が起こった。
悪意に満ちたうわさが二人の友情を裂いた
戦争が二人の間を引き裂いた
コロケーション
<関係>を
仲、間、友情、夫婦
非共起例
<関係>を
 絆[つながり]を裂く ○絆[つながり]を断つ[切る]
線状のものを垂直方向(伸びている方向に対して垂直)に断つときには「裂く」は使えないので、関係を線に例える用法の場合も使えない。この場合は「断つ」「切る」などが使われる。
解説
とても仲が良く、親密な関係で、まるで一体のようであった二人(またはそれ以上の人)を外部からの力によって引き離す。この語義では漢字表記は「裂く」が使われる。
類義語・反義語
類義語引き離す、離す、隔てる、分ける、分つ、壊す、切る 、断つ
反義語


4.振分け他動詞上級
表記割く
人や組織が、自分の時間・資金・スペース・エネルギーなどの一部を他人や活動のために使う。
文型
<人>が<時間・お金・エネルギー・スペース>を<もの・人・活動>にさく
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
勉強が忙しすぎて、デートに割く時間がない。
貴重な時間を割いてでも彼女に毎晩会いに行く。
採算がとれるかどうかわからない事業にこれ以上予算は割けない
事故の対応に人手を割かれてしまって、会社はてんてこ舞いだ。
もっと大事なニュースがあるのだが、スポンサーからの依頼記事に紙面の多くを割かざるを得ない。
広報に多くの費用を割いている割には効果がない。
stairs彼ね、最近大学の試験勉強で私とのデートに割く時間もないんだって。
コロケーション
<時間・スペース>を
時間、休日、~日、寸暇、手間、ページ、紙面、スペース、章、紙幅、面積
<エネルギー・お金・人>を
労力、エネルギー、力、戦力、資源、予算、費用、お金、コスト、人員、人、人手、人数、人材
<心・意識>を
心、意識、思考、神経、気持ち
<活動>に
活動、勉強、教育、研究、仕事、説明、練習、準備、作成、対応、観光、読書、作戦、サービス
<人・もの>に
人、時間、趣味、科目、描写、分野、事件、~方面、話
<活動>で
説明、ボランティア、ミーティング、仕事、会、対応
解説
時間や資金、人材、エネルギー、スペースなどを特定の人や活動のために使うというだけでなく、もともと限られた量しかないものを無理してそれに割り当てる、振り分けるというニュアンスがある。
この語義では漢字表記は「割く」が使われる。
類義語・反義語
類義語充てる、振り向ける、振り分ける、割り振る、割り当てる、使う、費やす
反義語


裂くの全体解説 本稿では、「さく」の中心義を「人が、手などでものを両側から引っ張り、長く直線的に分かれるように二分する」(語義1)とした。しかし、「さく」は「両側から引っ張る」だけでなく、刃物などを使用することで結果として同様に「長く直線的に分かれる」場合にも使用される。これを語義2「人が、刃物などでものを直線的に切って開く」とした。一方、語義3、語義4はより抽象度の高い用法である。語義3「人や出来事が、親密な関係にある人同士を引き離す」では、「さかれる」対象が「人間関係」である。語義4「人や組織が、自分の時間・資金・スペース・エネルギーなどの一部を他人や活動のために使う」は、「さく」対象は「時間・資金・スペース・エネルギー」などで、さらに「さいた」後に一方を他に供することを意味する。
「さく」の表記には「裂く」「割く」がある。具体的な行為を指す中心義語義1、語義2の場合は対象や行為によって「裂く」または「割く」が使われるが、実際の使い分けられ方の基準は必ずしも明確ではない。強い力で強引に分つ行為そのものに注目する場合は「裂く」、平面状や袋状のものに中途から切れ目を入れ一部を切り開くことに注目する場合(語義2の一部。例:魚の腹を割いて内臓を取り除く)には「割く」が用いられる場合が多いようである。抽象的用法である語義3、語義4のうち、一つと見なされるくらい密着していた人間関係を無理やり別れさせるという「強引に分かつ」行為である語義3「親密な関係にある人同士を引き離す」では「裂く」が使用される。「さいた」後、一方を他に供する(割り振る、割り当てる)ことを意味する語義4「自分の時間・資金・スペース・エネルギーなどの一部を他人や活動のために使う」では「割く」が使用される。
























▶全例文を聞く
<布地・紙>を
ぼくたちのシーツを裂けば簡単に縄梯子ができる。
(マーク・トウェイン著;加島祥造訳 『完訳ハックルベリ・フィンの冒険』, 2001, 933)
<木・もの>を
ピーマンをおしりから手で裂いて種とへたを除き、大きくちぎってぽん。
(村上祥子,中山庸子著 『電子レンジで朝ごはん』, 2000, 596)
<身体部位>を
マルドゥークはティアマトのを二つに裂き、その上半分から天を、下半分から大地を創った。
(ピーター・ローリー著;大沢満里子訳 『2009年、人類はこう終わる』, 2005, 147)
<道具>で
鶏の笹身は、同量の白ワインと水を合わせて煮立てた中に入れて茹で、茹で汁に漬けたまま冷まして取り出し、で割きます。
(森義文著;飯田勇雄撮影 『ごちそうものがたり』, 2002, 596)
<様態>に
このナスのお漬物はへたを包丁で切りあとは刃物を使わず手でに裂いて食べるそうです
(Yahoo!ブログ, 2008, グルメ、ドリンク)
<刃物>が
メスが皮膚を裂くときの痛みも、熱さを我慢するのに吸収されてか、余り感じなかった。
(沼正三著 『家畜人ヤプー』, 1999, 913)
<光>が
―青い稲妻が夕闇を裂いた。
(朝松健著 『真田三妖伝』, 2002, 913)
<布・紙・もの・動物>を
刃は突き刺さりはしなかったものの、その勢いは皮膚の表面を裂くのに十分で、ぽつんと血の玉がにじんだ。
(フリーマントル著;松本剛史訳 『シャングリラ病原体』, 2003, 933)
<身体部位>を
そしてその矢が則重のを裂いたのは、鼻を狙ったのが誤まって下の方へ行ったものと察せられる。
(谷崎潤一郎著 『武州公秘話』, 2005, 913)
<空間>を
車は渋滞し、人々は怒鳴りあい、クラクションが空襲警報のように空気を裂いていた。
(村上春樹著 『神の子どもたちはみな踊る』, 2000, 913)
<刃物>で
ストーンの上着はとうに脱げ落ち、下半身にはナイフで裂かれたズボンと下着が、だらしなくまとわりついているだけだった。
(逢坂剛著 『アリゾナ無宿』, 2005, 913)
<関係>を
自由に会えなかったりを裂かれたりすると、パートナーに飢える。
(森村誠一著 『マリッジ』, 2005, 913)
<時間・スペース>を
「その貴重な自由時間を、おれのために割いてくれているのか」
(三浦浩著 『消されたスクープ』, 1990, 913)
<エネルギー・お金・人>を
われわれは限られた財源の中から、より多くの予算を教育に割き、教師の給与を引き上げなければなりません。
(ノーマン・キング著;武者圭子訳 『ヒラリー・R.クリントンの歩み』, 1994, 289)
<活動>に
大学運動部のキャプテンは、自身の競技だけでなく、部の運営にも多くのエネルギーを割かねばならない。
(中込四郎著 『アスリートの心理臨床』, 2004, 780)
<人・もの>に
親は子供に割く時間を惜しがってはいけないと思います。
(田中澄江著 『叱り方の上手い親下手な親』, 1981, 379)






























彼ね、最近大学の試験勉強で私とのデートに割く時間もないんだって。
生木を裂く

意味
非常に親密な関係にある二人を無理やり引き離すことを、裂きにくい生木を裂くことに例えたもの。「生木を裂くように[な」」という形で用いられることが多い。
用例
一緒にさせてほしいと懇願する二人を生木を裂くように別れさせた。
コーパスからの用例
その中には生木を割くような生別もあるのである。(倉田百三著「人生における離合について」『青春をいかに生きるか』角川文庫、角川書店, 1953年)
複合動詞 V2

切り裂く、引き裂く
裂く(1グループ)の活用 ▶活用を聞く
アクセント型起伏型
辞書形
ない形ない
~なかったなかった
ます形さき
~ませんさきま
~ましたさきした
~ませんでしたさきまんでした
~ときくとき
ば形けば
意向形
て形いて
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可能形
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