下ろす・降ろすのコアイメージ

1.低いところへのものの移動他動詞初級★★★
表記下ろす・降ろす
人・動物などが、もの・人・その他の動物の全体あるいは身体の一部を、(あるところから)より低いところに移す。
文型
<人・動物>が<もの・身体の一部・人・動物>を<場所>に下ろす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
父が、棚の上に置いてあったバッグを床に下ろした
「一刻も早く、屋根の雪を降ろさないといけませんね」「そうですね、雪の重みで屋根が崩れ落ちたら、一大事ですもんね」
野良猫は、くわえていた魚を地面にそっと下ろすと、こちらに近付いてきた。
貨物は次々と、クレーンで甲板から波止場へと下ろされました
緊急時、航空機を地上に降ろすにあたって、リスクを最小限にするための適切な方法を検討するのも管制官の重要な仕事である。
祖母にお願いして、赤ちゃんをベッドから下ろしてもらった。
コロケーション
<もの>を下ろす
荷物、錨、雪、かばん、銃
<身体の一部>を下ろす
足、手、腕、両手、片足
<場所>に下ろす
下、床、地面、地上、(低い)位置
<場所>から下ろす
上、屋根、棚、木、ベッド
<様態>下ろす
ゆっくり、そのまま、すぐ、いったん、そっと
非共起例
<もの>を下ろす
 飛行機はゆっくりと高度を下ろしている
 飛行機はゆっくりと高度を下げている
「高度」、「水位」、「位置」など、何らかの位置を表す名詞は、「下ろす」のヲ格名詞とはならず、通常、「下げる」のヲ格名詞となる。
解説
語義1は、「下ろす」の最も典型的な意味である。「下ろす」と類義的な関係にある「下げる」においては、ある物体の存在する(ある位置からより低い位置への)位置を変化させる過程が焦点化される。これに対して「下ろす」では、ある物体の存在する位置を変化させた結果が焦点化される。(この、位置変化の結果として物体が存在することになる場所は通常、ニ格名詞(句)によって示される。)なお、「腰を下ろす」という場合には、腰を、椅子、床、地面などに接する状態にし、その状態を維持すること、すなわち、(位置を変化させた結果である)座るという意味を表す。一方、「腰を下げる」という場合には、腰を、ある位置より低い位置に移すことを表すが、変化の結果としての位置は何らかの名詞(句)によって明確に表される場所ではない。すなわち、「腰を下げる」では、座るという意味は表せない。(したがって、「椅子」、「床」、「地面」などのニ格名詞は、「腰を下げる」の場合には共起しない。)
誤用解説
「下ろす」は、人やその他の動物が、何らかの物体がある位置からより低い位置に至るまでのプロセスを全てコントロールする。一方、人やその他の動物によってそのプロセスがコントロールされず、人やその他の動物が、何らかの物体を(意図的、あるいは非意図的に)手から離すことで、その物体を下方に(加速度的に)移動させる場合には、「下ろす」ではなく「落とす」を用いる。
 弟が、大事なグラスを下ろして割ってしまった。
 弟が、大事なグラスを落として割ってしまった。
類義語・反義語
類義語下げる
反義語上げる


2.取り外し他動詞中級★★
表記下ろす・降ろす
人が、掲げてある平面的な広がりを持つものを取り外す。
文型
<人>が<もの>を下ろす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
店主は、古くなった看板を下ろすことにした。
我が社では、午後6時になったら社旗を降ろし、正門を施錠することにしています。
「今日は早めに店じまいをしたいから、そろそろ暖簾を下ろそうか」「はい、分かりました」
閉会式では、代表の児童によって国旗が下ろされました
「明日この辺りに大型の台風が最接近するということは、恐らくお祭りも中止になりますね」「じゃあ、のぼり旗は、今のうちに下ろしておくのが無難かもしれないですね」
会社は倒産し、かつて社屋に掲げられていた大きな看板もついに降ろされた
コロケーション
<もの>を下ろす
看板、のれん、旗、国旗、横断幕
<様態>下ろす
ゆっくり、すぐ、いったん、ようやく、一度
非共起例
<もの>を下ろす
 電柱の撤去に先立ち、電線を下ろす作業が行われた。
 電柱の撤去に先立ち、電線を外す作業が行われた。
語義2では、ヲ格名詞は「看板」、「のれん」、「旗」など、平面的な広がりを持つ物体を表す名詞である。上方に掲げられている、平面的な広がりを持たない物体を撤去する場合には通常、「下ろす」は用いられず、「外す」、「取り外す」などが用いられる。
解説
語義1では「下ろす」が、人(やその他の動物)が上方に存在している物体を下方のある領域に移すことを表すのに対して、語義2では「下ろす」が、人が上方に存在している物体(主に看板、のれん、旗)を取り外すことを表す。なお、「看板を下ろす」、「のれんを下ろす」という場合には通常、「看板」や「のれん」を取り外すことによって下方に移動させられるのに対して、「旗を下ろす」という場合には通常、「旗」を下方に移動させることによって取り外せる、という違いがある。
類義語・反義語
類義語外す、取り外す、取る
反義語掲げる、付ける、取り付ける


3.下方への展開他動詞初級★★★
表記下ろす・降ろす
人が、上方にまとめた状態で収納されている、平面的な広がりを持つものの下部を(床や地面などの)より低いところまで移し、十分に広げる。
文型
<人>が<もの>を下ろす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
裏方が、舞台の幕を下ろした
いつも18時になると、どの店も一斉にシャッターを降ろします
「鈴木さん、日差しが眩しいから、ブラインドを下ろしてくれないかな?」「ええ、分かりました」
山田先生は佐藤さんに、教室のスクリーンを下ろすよう指示した。
簾を下ろしておくと、部屋の温度が2℃~3℃は下がるそうです。
「シャッター通り」とは、営業を休止してシャッターが下ろされたままの店舗や事務所が多く見られる、活気を失った商店街や町並みを指す言葉である。
コロケーション
<もの>を下ろす
幕、シャッター、ブラインド、簾、スクリーン
<様態>下ろす
しっかり(と)、十分(に)、きちんと、完全に、そっと
<場所>まで下ろす
床、地面、下
非共起例
<もの>を下ろす
 横断幕を床までしっかり下ろす。
 を床までしっかり下ろす。
語義3では、ヲ格名詞は「幕」、「シャッター」など、上方にまとめた状態で収納されている、平面的な広がりを持つ物体を表す名詞である。「横断幕」は(舞台における)「幕」と異なり、(十分に)広げた状態で、上方のある領域に接した状態で用いる物体であり、下部をより低いところまで移すことによって広がる物体ではないため、語義3の用法として「下ろす」を用いることはできない。(「横断幕を下ろす」という場合には通常、語義2の用法である。)
解説
語義1では、低いところに物体を移動させることが焦点化される。これに対して語義3では、(平面的な広がりを有する)物体の下部を低いところに移動させることによって、その物体(全体)を上方から下方まで十分に広げることが焦点化される。ここで、十分に広げられる物体とは幕、シャッター、ブラインド、簾、スクリーンなどである。このうち、幕、シャッターは、ある空間領域を閉鎖するための道具である。ブラインドは、ある空間領域に入り込む光を遮断するための道具である。簾は、ブラインドと同様の用途で使われるほか、ある1つの空間領域を複数の領域に仕切るという用途でも使われる。またスクリーンは、映像を映し出すという用途で使われる道具である。このように、それぞれの物体の用途は異なるが、本来の用途で(十分に広げて)用いられる場合以外は、上方にまとめた状態で収納されているという点ではいずれも共通している。
誤用解説
「シャッター」、「ブラインド」などと異なり、「スクリーン」は空間領域の閉鎖、遮断という目的で用いられる道具ではない。したがって「スクリーン」というヲ格名詞は、「下ろす」を、類義語である「閉める」と置き換えることはできない。(「シャッターを閉める」、「ブラインドを閉める」などは、物体の下方への展開が焦点化される「下ろす」に比べて、空間領域の閉鎖ないし遮断がより焦点化される。)加えて、「シャッターを下ろす」、「ブラインドを下ろす」などは、「下ろす」の反義語として「上げる」、「開ける」をいずれも用いることができるが、「スクリーンを下ろす」では「下ろす」の反義語としては「上げる」を用いることしかできない。
 河合さんがスクリーンを閉めた
 河合さんがスクリーンを下ろした
 河合さんがシャッターを閉めた
 河合さんがシャッターを下ろした
 河合さんがスクリーンを開けた
 河合さんがスクリーンを上げた
 河合さんがシャッターを開けた
 河合さんがシャッターを上げた
類義語・反義語
類義語閉める
反義語上げる、開ける


4.降車・降船・降機他動詞初級★★★
表記降ろす   ※語義4では通常、「下ろす」ではなく「降ろす」が用いられる
人が、もの・人・その他の動物を、乗り物の中から外に移す。
文型
<人>が<もの・人・動物>を<乗り物>から降ろす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
父親は、子どもたちを車から降ろした
今、大きなコンテナが、次々と船から降ろされています
自衛官たちは、支援物資をトラックから降ろすとすぐに各避難所へ配送する手配を行った。
「娘の幼稚園では、帰りも先生が先に降車して、園児を安全にバスから降ろして保護者に引き渡してくださるんですよ」「それなら、安心ですね」
チェックインの際に預けた荷物は、飛行機から降ろされた順に、ターンテーブルに流されてきます。
駅員が男を電車から降ろそうとしたが、その男は激しく抵抗した。
コロケーション
<もの・人・動物>を降ろす
荷物、(積み)荷、乗客、子ども、貨物
<乗り物>から降ろす
車、船、トラック、バス、飛行機
<様態>降ろす
ゆっくり、いったん、すぐ(に)、まず、むりやり
解説
語義4では「降ろす」が、人が、乗り物の内部に存在している物体や生物を、乗り物の外部に移動させることを表す。通常、乗り物の外部に移動させられた物体や生物が位置することになる場所(地面)は、それらの物体や生物が本来位置していた場所(乗り物の内部)より低い位置にある。つまり語義4では、物体や生物が乗り物の内部から外部に移された結果として、上方から下方に移動することになる。この点で語義4は、人が物体や生物を上方から下方に移動させることを表す語義1と関連している。
誤用解説
語義4では、「<乗り物>を」のように、<乗り物>を表す名詞に助詞「を」を後続させて用いることはできない。(なお、「降ろす」と対応する自動詞である「降りる」では、「子どもたちが車を降りた」、「子どもたちが車から降りた」のように、「<乗り物>を」も「<乗り物>から」もいずれも用いることができる。)
 父親は、子どもたちを車を降ろした。
 父親は、子どもたちを車から降ろした。
類義語・反義語
類義語出す
反義語乗せる


5.剃髪・剪定他動詞上級
表記下ろす   ※語義5では通常、「降ろす」は用いられない
人が、(不要であると見なされる)髪・枝を切って、なくす。
文型
<人>が<もの>を下ろす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
私は、髪を下ろし尼となることを決意致しました。
佐藤義清は、髪を下ろして出家し、西行と名乗った。
宗派によっては、髪を下ろさないお坊さんもいます。
「鉈は、どんな時に使う道具ですか?」「木を削ったり、枝を下ろしたり、雑草を切り払うときに使う道具ですよ」
祖父は、専門業者にお願いして、庭木の枝を下ろしてもらうことにした。
そろそろ、我が家の庭にある欅の枝を下ろさなければなりません。
コロケーション
<もの>を下ろす
髪、枝
<様態>下ろす
すぐ(に)、いったん、ようやく、すでに、もう
非共起例
<もの>を下ろす
 庭師がを下ろした。
 庭師がを下ろした。
 庭師がを下ろした。
語義5では通常、ヲ格名詞は枝か髪に限られる。なお、ヲ格名詞が「葉」や「茎」の場合には、「下ろす」ではなく主に「切る」、「切り取る」などが用いられる。
解説
語義5では「下ろす」が、人が髪あるいは枝を切ってなくすことを表すが、通常、切られた髪・枝は、床や地面に落ちる。すなわち、上方から下方に移動することになる。この点で語義5は、人が物体や生物を上方から下方に移動させることを表す語義1と関連している。なお、語義5ではヲ格名詞が「髪」あるいは「枝」に限定されるが、いずれも、元々(自然に)生えるものであり、不要と見なされることが切ってなくなるようにする理由であるという点で共通している。ただし、「枝」を「下ろす」場合にはある木に生えている枝の一部を切る場合がある一方、「髪」を「下ろす」場合には出家という目的のために頭に生えている全ての髪がなくなる。また、「髪を下ろす」という表現は、語義5の用法のみならず、語義1の周辺的な用法としても用いられる。この場合には、「髪を下ろす」は「髪」を剃るのではなく、一定以上の長さのある髪を結わずに下に垂らすことを表す。(したがって、結っている際には上方にあった髪を、下方に移動させることになるため、語義1の周辺的な用法であるといえる。)このことに関連して、「前髪を下ろす」という表現は語義1の周辺的な用法としてのみ用いられ、(全ての髪が剃られることを表す)語義5の用法として用いることはできない。
類義語・反義語
類義語剃る、切る
反義語生やす、伸ばす


6.魚・鳥・獣の肉の切り分け他動詞上級
表記下ろす   ※語義6では通常、「降ろす」は用いられない
人が、(食用の)魚・鳥・獣の肉を複数の部位に切り分ける。
文型
<人>が<もの>を下ろす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
佐藤さんが魚を2枚に下ろした
今日は叔父に、鰺を3枚に下ろす方法を教えてもらいます。
母は、冷凍庫から取り出した鯛を三枚に下ろしてから、身を薄く切った。
魚を下ろした後の身の付いた骨のことを、津軽方言では「じゃっぱ」と呼ぶそうです。
この店では店員が、釣った魚を下ろしたり刺身にしたりしてくれるようだ。
「駅前の焼肉屋さんは、お客さんの注文を受けてからお肉を下ろして提供してくれるわよ」「それなら、いつでも新鮮でおいしいお肉が食べられそうね」
コロケーション
<もの>を下ろす
魚、あじ、さば、鯛、肉
<数量詞>に下ろす
3枚、2枚
<様態>下ろす
しっかり、すぐ(に)、まず、一気に、なんとか
非共起例
<もの>を下ろす
 店員が野菜を下ろした。
 店員が食パンを下ろした。
 店員がを下ろした。
語義6では、ヲ格名詞は(食用の)魚・鳥・獣を表す名詞に限定される。なお、「野菜」、「食パン」など、魚・鳥・獣以外の食べ物(食材)に関しては、「下ろす」ではなく主に「切る」や「切り分ける」を用いる。
解説
語義6は語義5と、人が対象物を切り取るという点で共通している。ただし、語義5では、切り取る対象が髪・枝であり、不要であると見なされる部位を切ってなくしている。これに対して語義6では、切り取る対象は(食用の)魚・鳥・獣の肉であり、これらは不要な部位と見なされているわけではない。すなわち、調理の一環として、食べやすい大きさにするため、調理しやすい大きさにするため、などといった何らかの目的で切り分けられるものである。また、語義5に比べて語義6では、人が対象を上方から下方に移動させるという特徴がより背景化する。(魚・鳥・獣の肉を「下ろす」と、魚・鳥・獣の体の上に付いていた身が下に敷いたまな板などに移動することになるが、この移動の距離は、語義5での髪・枝の移動よりも明らかに短いものである。)なお、「魚を二枚に下ろす」という場合には、魚を、半身に背骨がついたままのものと、もう一方の半身とに切り分けることを表す。一方、「魚を三枚に下ろす」という場合には、魚を、右身・左身・中骨に切り分けることを表す。
類義語・反義語
類義語切る、切り分ける
反義語


7.植物の細分化他動詞中級★★
表記下ろす   ※語義7では通常、「降ろす」は用いられない
人が、野菜・果物・その他の植物を、その表面を(おろし器やすり鉢などの)器具に押し付けて繰り返し動かすことによって細かくする。
文型
<人>が<もの>を下ろす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
妹が大根を下ろしました
母は私が赤ん坊だった頃、リンゴを下ろして離乳食に使っていたそうです。
大根と唐辛子、あるいは大根と人参を一緒におろしたものを、「もみじおろし」と呼びます。
「生わさびを下ろすなら、鮫皮おろしを使うと良いですよ」「ええ、以前、料理番組でその情報を知りました。わさび本来の香りと辛さを最大限に引き出せるようですね」
冷凍した長芋を下ろせば、手が痒くなりにくいらしい。
このセラミック製の薬味おろし器は、生姜や大蒜を片手で持って楽におろせます
stairs大根を生のままおろして他の食材と一緒にいただきます。
コロケーション
<もの>を下ろす
大根、にんじん、リンゴ、わさび、山芋
<道具>で下ろす
おろし金、鮫川おろし、鬼おろし、おろし器、すり鉢
<様態>下ろす
ゆっくり、しっかり、少し、一気に、どんどん
非共起例
<もの>を下ろす
 弟がくるみを下ろした
 弟がくるみを砕いた
語義7では通常、ヲ格名詞は、おろし器やすり鉢などを用いて細分化できるような柔らかさを持つ野菜、果物、芋などの植物を表す名詞に限られる。
解説
語義7では「下ろす」が、人がおろし器やすり鉢などの道具を用いて野菜や果物などを細かくすることを表す。細かくした結果、本来道具の上部に存在していた野菜や果物は、道具の下部(受け皿やまな板など)に移動することになる。この点で語義7は、人が物体や生物を上方から下方に移動させることを表す語義1と関連している。
類義語・反義語
類義語すり下ろす
反義語


8.新品の初めての利用他動詞中級★★
表記下ろす   ※語義8では通常、「降ろす」は用いられない
人が、もの(主に新しい衣服や筆など)をしまっておいた場所から取り出して初めて使う。
文型
<人>が<もの>を下ろす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
妻が新しい浴衣を下ろした
そろそろ、先月買った靴を下ろそうと思っています。
細筆は穂先が命なので、先端から3分の1の部分のみを丁寧かつ慎重に下ろさなければならない。
スーツを下ろすときには、しつけ糸を取るのを忘れないようにしましょう。
鈴木さんは、下ろしたばかりの背広を、木の枝に引っかけて破ってしまったそうだ。
新しい服や靴を夜に下ろしてはいけないと、子どもの頃、祖母に教わりました。
コロケーション
<もの>を下ろす
浴衣、靴、筆、スーツ、服
<様態>下ろす
すぐ(に)、まず、さらに、ようやく、もう
非共起例
<もの>を下ろす
 父は、先月買ったパソコンを下ろした。
 父は、先月買ったを下ろした。
 父は、先月買ったを下ろした。
 父は、先月買ったコートを下ろした。
語義8では、ヲ格名詞は主に筆記具(筆、ペンなど)や身に付けるもの(衣服、靴など)を表す名詞である。
解説
語義8では「下ろす」が、人が新しい衣服や筆記具などをしまっておいた場所(棚、箱など)から取り出して初めて使うことを表す。その際、通常新しい衣服や筆記具などは、元々存在していた場所(棚、箱など)から下方へと移動することになる。この点で語義8は、人が物体や生物を上方から下方に移動させることを表す語義1と関連している。
誤用解説
語義8では「下ろす」が、人が新しいものをしまっておいた場所から取り出す(移動させる)ことのみを表すのではなく、取り出して初めて使うことを表す。したがって、単に取り出すのみの場合には「下ろす」ではなく通常「出す」あるいは「取り出す」を用いる。
 兄は、新しい靴を下ろしたが履かなかった。
 父は、棚からスーツを下ろしたが着なかった。
 兄は、新しい靴を取り出したが履かなかった。
 父は、棚からスーツを出したが着なかった。
類義語・反義語
類義語使い始める
反義語しまう


9.出金他動詞初級★★★
表記下ろす   ※語義9では通常、「降ろす」は用いられない
人が、金融機関に預けてある金(の一部、あるいは全部)を引き出す。
文型
<人>が<場所・もの>から[で]<もの>を下ろす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
吉本さんは銀行から貯金を5万円下ろした
「昨日、預金を全部下ろしてきちゃった」「え!大きな買い物でもするの?」
これから銀行で、公共料金の支払いに必要な金額だけ下ろします
昨日、何者かによって母名義の口座から100万円が下ろされた
このスーパーにあるATMでは、小銭は下ろせません
口座名義人が亡くなったことが分かると、銀行はその人の口座をいったん凍結するので、親族であってもその口座からお金を下ろすことはできなくなる。
stairsコンビニってどこでもお金おろせてほんとに助かる~。
コロケーション
<場所・もの>から[で]下ろす
銀行、ATM、口座、通帳
<もの>を下ろす
(お)金、貯金、預金、小銭、5万円
<数量詞>下ろす
5000円、100万円
<様態>下ろす
すぐ(に)、いったん、少し、まず、全部
非共起例
<場所・もの>から下ろす
 吉本さんは、友人から5000円を下ろした
 吉本さんは、友人から5000円を借りた
 吉本さんは、友人から5000円をもらった
 吉本さんは、友人から5000円を受け取った
語義9では、カラ格(デ格)名詞は、金が存在している領域を表す名詞(銀行、ATM、口座など)に限られる。他者からの金の移動を表す場合(カラ格名詞が人を表す名詞である場合)には、「下ろす」ではなく「借りる」、「もらう」、「受け取る」などを用いる。
解説
語義9は語義8と、人がある場所からものを取り出すという点で共通している。ただし、語義8では取り出すものが新しい衣服や筆記具などであるのに対し、語義9では金である。また語義8では「下ろす」が、ものを取り出して初めて用いることを表すのに対し、語義9ではものを取り出す(金を引き出す)ことのみを表し、用いることまでは表さない。なお、預けた金が存在している領域のうち、「口座」、「通帳」などは通常、助詞「から」が後続する。一方、「銀行」、「ATM」などに関しては、金の移動の起点としての領域であることが焦点化される場合には助詞「から」が後続し、金を引き出す場所であることが焦点化される場合には助詞「で」が後続する。
類義語・反義語
類義語引き出す、出す
反義語預ける、入れる


10.降格・降板他動詞中級★★
表記降ろす・下ろす
人(もしくは組織・団体)がある人に対して、高い、もしくは重要な地位・役割を辞めさせる。
文型
<人>が<人>を<立場>から降ろす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
劇団は明子を主役から降ろした
病気により、田中氏は議長を降ろされることになった。
「あんなやつ、大臣の座から下ろしてやりたいよ」「たとえそうなっても、彼はきっといつか大臣に返り咲くことになると思いますよ」
これ以上無理難題を押し付けてくるのであれば、私たちとしては彼を委員長から降ろさざるをえない
監督は、悩みに悩んだ末に、山本選手を日本代表から降ろすことに決めました。
彼を管理職から降ろさない限り、この部署に山積する問題の根本的な解決はなされないであろう。
stairsヴェルズの監督、降ろされたって。
コロケーション
<立場>から降ろす
主役、議長、大臣、代表、座
<様態>降ろす
突然、急遽、急に、ついに、必ず
非共起例
<立場>から降ろす
 野球部の顧問が田中君を部員から降ろす
 野球部の顧問が田中君に部員を辞めさせる
ある組織や団体の中で高い、もしくは重要な立場ではない人を、その組織や団体から離す場合には、「降ろす」は用いない。
解説
「階級を上げる」、「二軍に落とす」などの表現からも分かるように、地位・役割を高くすることと上方向の移動、および地位・役割を低くすることと下方向の移動とは、それぞれ相関関係がある。語義10でも、相対的に高いもしくは重要な地位・役割だった人を、その立場を辞めさせる(その結果、その人は相対的に低い地位・役割になる)ことを、本来語義1のように人・動物がものを上方から下方に移動させることを表す「おろす」を用いて表現している。
誤用解説
語義10では、「<立場>を」のように、<立場>を表す名詞に助詞「を」を後続させて用いることはできない。(なお、「降ろす」と対応する自動詞である「降りる」では、「明子は主役を降りた」、「明子は主役から降りた」のように、「<立場>を」も「<立場>から」もいずれも用いることができる。)
 監督は山本選手を日本代表降ろした。
 監督は山本選手を日本代表から降ろした。
類義語・反義語
類義語辞めさせる、退かせる
反義語する、就ける


11.想像上の存在の召喚他動詞上級
表記降ろす・下ろす
人が、神や霊などの想像上の(宗教的)存在を人間界に呼び出す。
文型
<人>が<もの>を降ろす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
霊媒師が、亡くなった母の霊を下ろした
降霊術とは、その名の通り、あの世から霊を降ろすことです。
東北地方の北部には、死者の霊を降ろしてくれる「イタコ」と呼ばれる巫女がいるそうだ。
「口寄せというのは、どんな行為なのですか?」「イタコが、霊を自分に降ろし、霊の代わりとなってその意志を語る術のことです」
巫女には神主の補佐をするイメージがあるが、かつては、人々に神託を伝えるべく神を降ろすという役割を担っていたらしい。
シャーマンによって天から神様が降ろされた
コロケーション
<人>が降ろす
霊媒師、霊能者、巫女、シャーマン、イタコ
<もの>を降ろす
霊、先祖、神、神様、魂
<人>に降ろす
自ら、自分、自身
<場所>から降ろす
あの世、天
<様態>降ろす
ゆっくり、いったん、すぐ(に)、突然、一度
非共起例
<もの>を降ろす
 鬼を降ろす
 怪物を降ろす
 鬼を現れさせる
 怪物を呼び出す
想像上の存在の中でも、天(空)に存在すると考えられていないものについては通常、「降ろす」を用いることはできない。
解説
霊、神などの想像上の(宗教上の)存在が、本来は(下方にある「地」に対して上方に位置付けられる)天(空)に存在しているという見方を前提として、それらの存在を人間界に呼び出すことを、本来語義1のようにものを上方から下方に移動させることを表す「おろす」を用いて表現している。
類義語・反義語
類義語呼び出す、現れさせる
反義語戻す


12.堕胎他動詞上級
表記堕ろす、下ろす   ※語義12では通常、「降ろす」は用いられない
女性が、体内で発育中の胎児を、その胎児の生命を失わせることを目的として妊娠を人工的に止め、体外に移す。
文型
<人>が<人>を堕ろす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
友人が、子供を堕ろした
その父親は娘に何度も、「お腹の子は絶対に堕ろせ」と言った。
宗教上の理由から、私は子供を堕ろすことに強い抵抗があります。
彼女はどうしても、お腹の子を下ろせなかったようだ。
子供を堕ろさず一人で育てていくことなんて、私にできるのだろうか。
姉は、とても子供を堕ろそうという気持ちにはなれなかったそうです。
コロケーション
<人>を堕ろす
子供、子、胎児、赤ちゃん、赤ん坊
<様態>堕ろす
既に、もう、必ず、たぶん、きっと
解説
語義12では「おろす」が、女性が、体内で発育中の胎児を、その胎児の生命を失わせることを目的として体外に移すことを表す。その結果、胎児は通常、元々存在していた場所(女性の体内)より下方へと移動することになる。この点で語義12は、人が物体や生物を上方から下方に移動させることを表す語義1と関連している。
誤用解説
ある存在を空間の内部から外部に移すという点で、語義12は語義4と共通している。ただし、語義4では「<乗り物>から」というカラ格が必須であるのに対し、語義12では通常、カラ格は共起しない。
 彼女はお腹から子供を堕ろした。
 彼女は子供を堕ろした。
 父親が子供を車から降ろした。
類義語・反義語
類義語中絶する
反義語


下ろす・降ろすの全体解説 各語義の解説をご覧ください。
























▶全例文を聞く
<もの>を下ろす
廃屋にはいると、男は荷物を下ろし、ほこりだらけの床に腰を下ろした。
(Yahoo!ブログ, 2008, 文学)
「順動丸」は十六日に下田を発ち、その日の夕刻、品川沖にを下ろした。
(吉村淑甫著 『近藤長次郎』, 1992, 289)
<身体の一部>を下ろす
両手にダンベルを持ってを下ろし、真っすぐ立つ。
(斎藤陽子著 『カラダ引き締め脂肪を燃やす斎藤陽子さんのプチダンベル』, 2003, )
<場所>に下ろす
私は柩を階段下に下ろさせたが、一時間ほどそのままにしておいた。
(桐生操著 『ルイ十七世の謎』, 1989, 289)
<場所>から下ろす
紙製コースターが詰まった段ボールをから下ろして健太が言う。
(甲斐透著;影崎由那原作 『かりん増血記』, 2003, 913)
<様態>下ろす
段差の上に爪先立ちをして、踵(かかと)ゆっくり下ろしていきます。
(Yahoo!知恵袋, 2005, 健康、病気、ダイエット)
<もの>を下ろす
艦尾では葬送のために掲げた半旗を信号員が旗竿から下ろし、折り畳んでいた。
(檜山良昭著 『海底空母イー400号』, 1999, 913)
<もの>を下ろす
駅前の商店街も、七時になると一斉にシャッターを下ろしてしまうくらいだ。
(篠田節子著 『逃避行』, 2003, 913)
敵からの攻撃をふせぐために、窓のブラインドを下ろし、機内と外のすべてのライトを消しました。
(アレン・ネルソン著 『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』, 2003, 319)
<もの・人・動物>を降ろす
Lさん(50)は、JR王子駅のそばで、を降ろしたあとに、座席とバックシートの隙間に突っ込まれているものに気がついた。
(神保史郎著 『タクシードライバーのとっておきの話』, 1991, 049)
<乗り物>から降ろす
長いコートの男性が何か言うと、子どもたちだけがから降ろされた。
(大久保真紀著 『ああわが祖国よ』, 2004, 369)
<もの>を下ろす
藤壺の女院と崇められる人が、を下ろして出家した入道の宮であることに変わりはない。
(橋本治著 『窯変源氏物語』, 1996, 913)
<もの>を下ろす
「亀節」は小型魚を三枚に下ろし、それぞれの片身を二本の節にしたもので、形状が亀に似ていることからそう呼ばれる。
(荒川勝利著 『誰にでも打てる掟破りの簡単手打ちそば』, 2001, 596)
<数量詞>に下ろす
これは常識だが、魚に無知な記者は、むろんウロコを落とさないまま3枚に下ろした。
(Yahoo!ブログ, 2008, Yahoo!ブログ)
<場所・もの>から[で]下ろす
うち1人は,交通事故で死亡した実兄の保険金約200万円を親に無断で銀行から下ろし,覚せい剤購入代金に充てていた(京都)。
(警察白書, 1980, )
<もの>を下ろす
銀行のATMでお金を下ろすのに、手数料がかかるのは何時からですか?
(Yahoo!知恵袋, 2005, 家計、貯金)
<立場>から降ろす
政権のから降ろされることとなったのも、そうした彼のパーソナリティによる部分が大きいのであろう。
(大東文化大学戦後史研究会編;永野慎一郎他著 『戦後世界の政治指導者50人』, 2002, 312)
<もの>を降ろす
蓬萊とか須弥山とか、を降ろす場を象徴し、仏の坐す所を象徴するといった飾りが出てくるのである。
(熊倉功夫責任編集 『日本の食事文化』, 1999, 383)
<人>に降ろす
仮面の神の出現を促す地舞の原型は、巫女が舞を舞うことによって、自分の身体に神を降ろす巫女舞にあると考えられますが、神を祭りの場に出現させるために、ご神体の仮面はその社家が被らなければならない。
(鷲田清一ほか著 『顕わすボディ/隠すボディ』, 1993, 210)
<人>を堕ろす
医者から、子供を下ろすか、妻の命を救うか選択を迫られました。
(Yahoo!知恵袋, 2005, 恋愛相談、人間関係の悩み)






























大根を生のままおろして他の食材と一緒にいただきます。
コンビニってどこでもお金おろせてほんとに助かる~。
ヴェルズの監督、降ろされたって。
重荷を下ろす

意味
人が、何らかの責任を果たしたり、心配事が解決されたりすることで、安心する。
用例
子どもたち全員が社会人になって、私たち夫婦もようやく重荷を下ろしました
コーパスからの用例
一瞬、ハットはジョージ・ヘディングリーのことを話してしまおうかと思ったが、肩の重荷を下ろすのはいささか格好悪い気がしたし、自分の評価が上がらないのは確かだった。 (レジナルド・ヒル著;秋津知子訳 『死者との対話』, 2003, 933)
看板を下ろす

意味
店主(店員)が、一日の営業を終えて店を閉める。
用例
今夜はミーティングがあるので、午後5時には看板を下ろす
意味
店主や経営者が廃業する。
用例
赤字が原因で、店主は長年続けてきたラーメン屋の看板を下ろすことにしました。
コーパスからの用例
勤勉な従業員のすさまじい努力にもかかわらず、2007年3月、私は45年間続いた建設会社の看板を下ろす決断をした。(朝日新聞グローブ (GLOBE)|Meets Japan―世界と日本を考える 山口スティーブ)
意味
人や組織・団体が、それまで掲げていた主義や主張を取りやめる。
用例
田中氏の最近の言説からすると、彼はもはや保守の看板を下ろしたのかもしれない。
コーパスからの用例
しかし、企業誘致の看板を降ろすことはできないとしても、ほとんどの自治体が第二次産業の企業誘致をあきらめるか、意味がないと思うようになりつつある。(野田正彰著 『生きがいシェアリング』, 1988, 366)
(肩の)荷を下ろす

意味
人が、自身の責任や負担を取り除く。
用例
人事案が認められて、人事部長もようやく荷を下ろした
コーパスからの用例
固くなって必死に受けこたえしているうちに大久手に着いてしまい、向井とも別れて独りっきりになると、初めて肩の荷をおろしたような解放感が味わえた。 (栄治著 『占領時代』, 2005, 913)
根を下ろす

意味
草木が、ある(新しい)土地でしっかりと根を生やす。
用例
我が家の庭では、10年前に植えた木々がすっかり根を下ろした
コーパスからの用例
その屋根にはかろうじて瓦が載っていたものの、方々が欠け、秋草が根を下ろしていた。(小野不由美著 『黒祠の島』, 2001, 913)
意味
人が、ある土地に留まり、安定的に生活を営む。
用例
50年前、バンクーバーに根を下ろしたある日本人がいた。
コーパスからの用例
雪に埋もれた中で患者らと接しているうちに地域に根を下ろす気になり、家族を呼び寄せた。(佐藤国雄著 『雪国大全』, 2001, 291)
意味
ある物事が定着する。
用例
フォークソングが若者の間に根を下ろした
コーパスからの用例
昔は信仰は生活の中に根を下ろし、風俗や習慣の中に生きていた。(島田美穂著 『證』, 2002, 049)
暖簾を下ろす

意味
店主(店員)が、店のその日の営業を終える。
用例
明日は夜に田中君の歓送会をするから、いつもより1時間早く暖簾を下ろそう
意味
店主や経営者が、商売や会社経営を辞める。
用例
ついにあの老舗までもが、時代の流れに勝てず、暖簾を下ろすことを決めたそうだ。
コーパスからの用例
北大柔道部のレスリングコーチが経営していた焼き鳥「みねちゃん」が39年の暖簾をおろす。(増田俊也の憂鬱なジャンクテクスト|公式ブログ:アントン・ヘーシンク逝く。当時の動画を見ると寝技も立技も非常にハイレベル。)
複合動詞 V1

下ろし始める、下ろし続ける、下ろし終わる、下ろし終える、下ろし尽くす、下ろし切る
複合動詞 V2

打ち下ろす、抱え下ろす、書き下ろす、担ぎ下ろす、切り下ろす、汲み下ろす、こき下ろす、すり下ろす、ずり下ろす、助け下ろす、抱き下ろす、掴み下ろす、吊り下ろす、眺め下ろす、撫で下ろす、運び下ろす、引き下ろす、引きずり下ろす、引っ張り下ろす、吹き下ろす、振り下ろす、見下ろす
複合名詞

上げ下ろし、枝下ろし、下ろし和え、下ろし金、下ろし大根、下ろし立て、書き下ろし、着下ろし、三枚下ろし、仕立て下ろし、大根下ろし、積み下ろし、取り下ろし、撮り下ろし、荷下ろし、二枚下ろし、ねた下ろし、吹き下ろし、筆下ろし、船下ろし、雪下ろし、神降ろし、仏降ろし
下ろす・降ろす(1グループ)の活用 ▶活用を聞く
アクセント型起伏型
辞書形
ない形おろない
~なかったおろなかった
ます形おろし
~ませんおろしま
~ましたおろしした
~ませんでしたおろしまんでした
~ときすとき
ば形せば
意向形おろ
て形して
た形した
可能形おろ
受身形おろさ
使役形おろさ
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