起こるのコアイメージ

1.物事の発生自動詞初級★★★
表記起こる
物事・イベントが発生する。
文型
<イベント>が起こる
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
ワールドカップの試合を見た市民による暴動が起こった
この都市は、多くの凶悪犯罪が起こっているため、特別な対策が必要だろう。
雪山では油断していると雪崩が起こることがあるので、十分に注意してください。
二つの国の対立から痛ましい飛行機事故が起こったらしい。
空気が乾燥しているので火の元には十分気をつけてください。単純な見落としが原因で火事が起こらないともかぎりませんから。
stairs地震が起こった時に慌てないよう、子どもの頃から学校などで避難訓練をします。
コロケーション
<物事>が
暴動、事件、地震、火事、犯罪
<時間>に
年、日、時期、8時
<場所>で
県、国、世界、雪山
<原因>で
地震、原因、〜ので(例「慌てていたので」)
解説
語義1は「起こる」の中心的な意味で、抽象的な物事・イベントが発生することを意味する。
語義1の「起こる」は、複合動詞として用いられている場合を除いたほとんどの場合に「起きる」と置き換えることができる。この「イベントの発生」の用法は、伝統的には「起こる」が持っていた用法である。しかし、現代では、「起きる」と「起こる」を本動詞として用いる場合はほとんど違いがない。
 暴動が起きる
 暴動が起こる
この一方で、「起きる」と「起こる」を複合動詞として用いる場合には違いが見られる。
 巻き起きる
 巻き起こる
 わき起きる
 わき起こる
このように、「起こる」は複合動詞として用いられるが、「起きる」は複合動詞としては用いられない。
類義語・反義語
類義語発生する、生じる、起きる
反義語


2.感情・意欲の発生自動詞中級★★
表記起こる
感情や意欲が生じる。
文型
<感情>が起こる、<意欲>が起こる
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
休み明けでどうしてもやる気が起こらない
練習する気が全く起こらない
どうしても仕事への意欲が起こらないといっても、仕事を休んで良いという言い訳にはならない。
彼は精神的に未熟なところがあるからか、しばしばいたずら心が起こるようだ。
夜道で突然声をかけられたら、誰でも警戒心が起こるでしょう。
この教科書は子どもたちの知的好奇心が起こるよう、いろいろな工夫がされている。
stairsテレビのほうが面白いんだもん。勉強する気なんて起こらないよ。
コロケーション
<感情>が
警戒心、好奇心、いたずら心、悪心、冒険心
<意欲>が
意欲、やる気、〜する気
<対象>
仕事、練習、トレーニング、宿題
<程度>
全然、全く、徐々に、本当に、少しも
非共起例
<感情>が
 感情[悲しみ、喜び、嬉しさ]が起こる 
 (合格発表で自分が合格していることが分かったが)なぜかは分からないが、嬉しいという気持ちが起こらなかった
「起こる」では、「感情」や「悲しみ」等、多くの感情語を直接主語に取ることができず、「~という気持ち」のような表現が入る。
解説
語義2は、語義1から意味拡張されたものであると考えられる。この意味拡張は、語義1の「抽象的なイベントの発生」と、語義2の「意欲・感情の発生」に類似性があることにより動機付けられている。
「起きる」にも同じ用法(語義4)があり、「起きる」の語義4は否定形で用いられることが多いが、「起こる」の語義2も主文の本動詞としては否定形で用いられることが多い。
類義語・反義語
類義語出る、なる、生じる、起きる
反義語なえる、なくなる、消える


3.多人数の評価行為自動詞中級★★
表記起こる
多くの人がある物・物事に対して賞賛・非難を示す行為を行う。
文型
<行為>が起こる
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
演奏が終わると自然に喝采が起こった
私の目の前で、今まさに万雷の拍手が起こっています
打ち合わせで、歓声が起こったらアンコールをすることにしていた。
いつまで待っても賞賛の声は起こらなかった
その国では、どこへ行っても大統領の演説に対してブーイングが起こるらしい。
これだけの演奏ならスタンディングオベーションが起こるのも当然といえよう。
コロケーション
<行為>が
拍手、歓声、喝采、賞賛の声、ブーイング
解説
語義3も語義1との類似性を元に意味拡張されたものである。
語義3の用法で用いられた「起きる」の「ている形」は、基本的には「完了」を表す。しかし、例文2のように「目の前で」のような文脈を加えることで、「進行」を表すことも可能である。
類義語・反義語
類義語(声が)あがる、起きる
反義語


4.組織・物事の発生自動詞上級
表記興る
組織や物事が新しくできる。
文型
<組織・物事>が興る
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
経済成長に伴って、多くの会社が興りました
この地にこの国が興ってからおよそ20年。周辺国の度重なる攻撃と天災によって、この国の国力はすっかり衰えてしまった。
ローマ帝国が興ったのは紀元前27年だと歴史の授業で習いました。
PCが身近なものになって以来、多くのPC関連産業が興っています
古代文明の多くは大きな河の側に興ったようだ。
コロケーション
<組織>が
会社、国、家、宗教、帝国、名家
<物事>が
事業、産業、文明、ビジネス
<時間>に
〜年に、時代に、間に
<場所>に
東京に、地に(この地に)、地方に、側に
解説
語義4は語義1から派生した用法である。語義1の「抽象的なイベントの発生」も、語義3の「組織・物事の発生」も、共に元々は存在していなかったものが、発生することに主眼がおかれており、この点で類似性がある。
語義1-3や語義6は対応する用法が「起きる」にも存在していた。しかし、語義4と類似している用法は「起きる」にはない。
 中世には多くの国が興った
 中世には多くの国が起きた
類義語・反義語
類義語できる、(国が)建つ、(ビジネス・事業が)始まる
反義語なくなる、つぶれる、(国が)滅びる


5.物理的な現象の発生自動詞上級
表記起こる、おこる、熾る
物理的な現象が生じる。
文型
<自然現象>がおこる
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
炉に炎が熾っている
炭火が熾っている
地震の後で、断続的に揺れが起こっている
三国志の「赤壁の戦い」と呼ばれる戦いには、諸葛亮孔明の儀式によって東南の風が起こったという伝説がある。
炭に火をつけたが、火が熾るまでだいぶ時間がかかった。
コロケーション
<自然現象>が
火、炎、炭火、強い揺れ
<様態>
真っ赤に、赤々と、激しく、断続的に
非共起例
<自然現象>
 風が起こった
 揺れが起こった
 風が吹いた。
 (地面・床などが)揺れた。
一部の話者は、「火」以外の自然現象が発生するという意味で、「起こる」を使用すると座りが悪いと感じるようである。理由としては、「風の発生」には「風が吹く」、「揺れの発生」には「(地面などが)揺れる」という、より自然な表現があることが考えられる。
この一方で、例文3, 4のように、自然現象の規模が大きい場合や、自然現象に「イベント」性があると認められる場合には不自然さが解消される傾向がある。(この場合、例文3, 4の「起こる」を語義1の「物事・イベントが発生する」と類似した意味で捉えている可能性がある。)
解説
語義5は語義1からの拡張であると考えられる。それまで起きていなかった炎が燃焼するという状況と、それまで起きていなかった物事が発生するという状況に類似性があることにより、動機付けられている。
この語義は典型的に炭で火が燃え盛る状態を表す。このため、炭火がもとになっていないような文脈では不自然である。
 炭火が起こっている。
 コンロに火が起こっている。
「熾る」は常用漢字ではないが、小説などでしばしば用いられる。
類義語・反義語
類義語発生する、(炎が)燃え盛る
反義語消える、おさまる


6.反応の発生自動詞上級
表記起こる
非意図的な症状や反応が発生する。
文型
<反応>が起こる
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
心臓に疾患を抱える患者さんは、その話を聞いたショックで発作が起こってしまったらしい。
A社の薬が原因で患者に副作用が起こっているようだ。
この薬品に別の薬品を入れると激しい反応が起こるかもしれないから注意してください。
非常に珍しい細菌が原因で起こる感染症の可能性があります。
手術の後で内出血が起こり得ることに留意してください。
コロケーション
<反応>が
痛み、炎症、異常、痛み、化学反応、発作、症状
<身体>に
身体、肩、頭、関節、足
解説
語義6は、何かしらの原因で発生した症状や反応が知覚できる状態になることを「起こる」と表現するものである。症状が知覚できる状態になることは、それまで存在しなかった抽象的な事象が発生することと平行している点で、語義1と類似している。
一見すると語義1と語義6は非常に近い意味を持っているが、語義1が世間や社会等、広い範囲に影響を及ぼす状況を表しているのに対して、語義6は個人や反応を起こす物質など、比較的狭い範囲に影響を及ぼす状況を表すことが多い。
類義語・反義語
類義語生じる、発生する、出る
反義語治る、消える


起こるの全体解説 語義1は「起こる」の中心的な意味で、抽象的な物事・イベントが発生することを意味する。他の語義は、全て語義1との類似性により意味拡張したものであると考えられる。
「起こる」は「起こす」の自動詞形であるが、「起こす」の自動詞形として、他に「起きる」がある。「起こる」の意味分布は、「起きる」とは大きく異なっており、「起こる」が物事・イベントの発生を中心的な意味とするのに対し、「起きる」は人が横になった状態から上体を持ち上げるという意味を中心的な意味とする。このため、「起こる」は以下のような用法では決して用いない。
 彼は転んだが、すぐに起こった
 彼は眠り続け、昼頃になってようやく起こった
反対に、「起こる」の中心的な用法である物事・イベントの発生は、元々「起きる」では使われていなかったようであるが、現在の日本語では問題なく使用される。
 地震が起きた
このように、物事・イベントの発生の意味で本動詞として用いられる場合、「起こる」・「起きる」の違いはほとんどないと言える。しかし、両者は複合動詞で用いられるかどうかに違いがある。
 ブームが巻き起こった
 ブームが巻き起きた
 拍手がわき起こった
 拍手がわき起きた
このように自動詞と他動詞が1対1の関係になっていない代表的な動詞として他に以下のような動詞対がある。

つながる(自):つなぐ、つなげる(他)
とける(自):とく、とかす(他)
やすまる、やすむ(自):やすめる(他)
ちぢまる、ちぢむ(自):ちぢめる(他)
まざる、まじる(自):まぜる(他)
























▶全例文を聞く
<物事>が
そんな話の矢先に事件が起こりました。
(蔵谷浩司著 『子どもの心を鍛える学校』, 2002, 370)
危険な交差点に信号機が設置されるのは、何度か事故が起こってからなのだ。
(ジェームス・D.ワトソン,アンドリュー・ベリー著;青木薫訳 『DNA』, 2005, 467)
<時間>に
一九一一年に辛亥革命が起こり、その翌年に中華民国が成立する。
(呉智英著 『ホントの話』, 2003, 304)
<場所>で
ヨーロッパではワイン戦争がよく起こる。
(財前宏著 『世界路地裏・食紀行』, 2002, 290)
<原因>で
鉄欠乏性貧血は、血液中に鉄分が足りなくなることが原因で起こる。
(舛重正一監修 『栄養のキホンがわかる本』, 2005, 498)
<感情>が
それと同時に、こころのどこかで、なぜか、とても寂しい気持ちが起こるのを感じました。
(黒川由紀子編 『老人病院』, 2002, 493)
<意欲>が
それに対し作業単位を多くして、繰り返しの動作を少なくするとやる気が起こるようになります。
(田尾雅夫著 『モチベーション入門』, 1993, 366)
<行為>が
客席からかすかな笑いが起こった。
(ポール・牧著 『笑わせ者たちの伝説』, 1987, 913)
スタンドに歓声が起り、僕は助走路に立った。
(池波正太郎著 『緑のオリンピア』, 1987, 913)
<組織>が
シーク教がパンジャブ州に興ったのは十六世紀初めのことである。
(NHKアジアハイウェー・プロジェクト著 『アジアハイウェー』, 1994, 302)
<物事>が
もし,イノベーションなどによって新たな財が生み出されたとすれば,そのような財を生産するために新しい産業が興るであろう.
(永田長生著 『協調の失敗とマクロ経済政策』, 2003, 331)
<自然現象>が
寒い夜でしたから、炬燵のが真っ赤に熾っていて、その明かりに照らされて、私のものも火柱みたいに真っ赤でした。
(久世光彦著 『陛下』, 1996, 913)
<反応>が
胆石発作は、思わずうずくまって動けなくなる疝痛、差し込むような痛みが起こります。
(毎日ライフ, 2003, 医学)
認知症になると言葉の意味とか、ものを考えることにも障害が起こります。
(広報きりしま, 2008, 鹿児島県)
<身体>に
ところが、大量のアルコールを飲んだりしたわけでもないのに、肝臓に強い炎症が起こることがあります。
(きょうの健康(NHKテレビ放送テキスト), 2002, 医学)






























地震が起こった時に慌てないよう、子どもの頃から学校などで避難訓練をします。
テレビのほうが面白いんだもん。勉強する気なんて起こらないよ。
複合動詞 V1

わき起こる、巻き起こる
起こる(1グループ)の活用 ▶活用を聞く
アクセント型起伏型
辞書形
ない形おこない
~なかったおこなかった
ます形おこり
~ませんおこりま
~ましたおこりした
~ませんでしたおこりまんでした
~ときるとき
ば形れば
意向形おこ
て形って
た形った
可能形
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