侵す・犯す・冒すのコアイメージ

1.他者の領域への侵入他動詞上級
表記侵す
無断で、あるいは不法に他者の領域へ入る。
文型
<人・組織>が<境界・領域>をおかす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
両国は、かつては戦争をしていたが、現在は互いに国境を侵すことはなくなった。
隣国を侵してはならない。
他国に領土が侵される
侵入機は、数十分の間、領空を侵していた。
他者にパーソナルスペースを侵されると、緊張する。
人は、他者が自分の領域を侵そうとすると、反発するものだ。
コロケーション
<人・組織>が
国、軍、~船、艦隊、(航空)機、【人名】
<境界・領域>を
① 領域:国境、境界、領域、領分、領土、国、【地域名】、~圏
② 精神的領域:【人】の領域、スペース、テリトリー
解説
「おかす」のコアイメージは、越えてはいけない境界を破るという行為である。「抵抗・反発」を押し除けるという意味合いがある。
語義1は、越えてはいけない境界を越えて、他者の領域に入ることを表す。
「拒絶されているのに(無断で、あるいは不法に)入る」という「抵抗・反発」を押し除ける意味合いがある。
類義語・反義語
類義語侵入する、侵略する
反義語


2.権利・権益・権威の侵害他動詞上級
表記侵す・犯す   ※「犯す」も使われるが「侵す」が標準的
他者の領域に入り、他者の権利や権益、権威などを損なったり、奪ったり、活動を邪魔したりする。
文型
<人・組織・制度>が<権利・権益・権威>をおかす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
ソフトウェアをコピーすることは著作権を侵している。
国民の知る権利を侵す制度には反対だ。
表現の自由を侵して はならない。
利用者のプライバシーや利益が侵されないよう、個人情報を厳密に管理している。
戦争は国民の安全を侵す
人の尊厳を侵す差別は、なくさなければならない。
コロケーション
<人・組織・制度>が
国、国家、使用者、【人名】、~の人々、制度
<権利・権益・権威>を
権利、主権、プライバシー、利益、自由、独立、尊厳、神聖
解説
語義2は、他者の領域に入り、直接的・間接的に、他者の権利・権益・権威に干渉したり、害を与えたり、損なったり、他者の活動を邪魔したりすることを表す。
「他者」には、神など、人間・人類から見て自分たちと違う世界に属すると考えられるものも含まれ、「神聖(さ)をおかす」「神をおかす」「神域をおかす」などの表現もある。
類義語・反義語
類義語(~を)損なう、侵害する、脅かす、冒涜する、(~に)干渉する
反義語


3.病の侵食他動詞上級
表記侵す・冒す
有害なものが、生物の体や体の一部、あるいは自然などの有機的なものに、徐々に入ってきて、障害や病を引き起こす。
文型
<有害なもの>が<生物・自然>をおかす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
彼は癌に侵されている。
彼女は神経が侵される難病にかかった。
血糖値が高くなると、体の中の臓器や細胞が侵され、様々な病気を引き起こします。
ウイルスに肺が冒された
大気汚染によって、健康が冒されている。
環境汚染が自然を冒す
stairs水俣病は、脳や神経が侵される病気なんだ。
コロケーション
<有害なもの>が
細菌、病原菌、ウイルス、癌、毒、汚染物質
<生物・自然>を
① 生物:神経、細胞、臓器、脳、器官、目、粘膜、全身、植物
② 自然:自然、環境
解説
語義3は有害なものが生物や自然へ悪い作用を及ぼすことを表す。
生物への作用は、有害なもの(無生物が多い)より、生物のほうに視点が置かれて、受身で表現され、「病気を患う」「ウイルスなどに感染する」という意味で用いられることが多い。
「健康を侵す」「機能を侵す」「精神を侵す」「命を侵す」などのように生物の体ではない抽象的・有機的なものに不具合が生じたということを表す例もある。
さらに、「自然を侵す」「環境を侵す」など生態系などを破壊することを表す例もある。
類義語・反義語
類義語蝕(むしば)む
反義語


4.規則からの逸脱他動詞上級
表記犯す
法律・規則・道徳的規範などから外れる。
文型
<人・組織>が<規則>をおかす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
「11時までに帰らなければならない」という規則を犯してしまった。
未成年の飲酒は、法を犯しているだけでなく、脳にも悪い影響がある。
その研究者は、タブーを犯して、クローンを作成した
社会法規を犯さなければ、何をしてもいいわけではない。
自然の法則を犯すことはできない。
あの企業は法を犯して大金を得ている。
コロケーション
<人・組織>が
我々、人間、彼、あの人、政権
<規則>を
法、法律、規則、法則、規範、戒律、禁、タブー
解説
語義4は、「法律や規則など、従わなければならないこと、定められた範囲」から外れる、すなわちルールを破ることを表す。
「法律や規則など、従わなければならないこと、定められた枠」という「抵抗・反発」があり、それを押し除けて破るという意味合いがある。
類義語・反義語
類義語(~を)破る、逸脱する、(~から)外れる
反義語


5.過失他動詞中級★★
表記犯す
故意ではなく不注意などにより、失敗する。
文型
<人・組織>が<失敗>をおかす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
人間は不完全なもので、誰でも間違いを犯す
試合の後半に致命的なミスを犯して、負けてしまった。
私は大きな失敗を犯していたことに気が付いた。
二度と同じ過ちを犯さないよう、過去を反省しなければならない。
相手の名前を間違えるという失態を犯してしまった。
手術の際、医者が過失を犯したのではないかと疑われている。
コロケーション
<人・組織>が
人、自分、自身、犯人、人間、政府、国
<失敗>を
失敗、過ち、間違い、誤り、ミス、失態
解説
語義4は「ルールから外れる」ことを表すが、語義5はルールから外れてしまい、「失敗などをする」ことを表す。
類義語・反義語
類義語やらかす
反義語


6.違反的行為他動詞中級★★
表記犯す
故意に、法律・規則・道徳的規範など社会的に決められているルールから外れた、悪いことを行う。
文型
<人・組織>が<悪いこと>をおかす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
犯人はなぜ罪を犯したのだろうか。
彼は殺人を犯したとして逮捕された。
DFの選手がファウルを犯し、フリーキックのチャンスを与えてしまった。
反則を犯した選手は退場となります。
彼は交通違反を犯して、免許停止になってしまった。
あの企業は不正行為を犯していると非難されている。
コロケーション
<人・組織>が
人、自分、自身、犯人、人間、政府、国
<悪いこと>を
罪、犯罪、犯行、殺人、違反、不正、反則
解説
語義4は「ルールから外れる」ことを表すが、語義6は社会的なルールから外れた「悪い行為をする」ことを表す。


7.暴行他動詞上級
表記犯す
性的な暴行をする。
文型
<人>が<人>をおかす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
女性が犯されるという事件が起こった。
その映画には、犯人が人を殺したり、女を犯したりといった残虐なシーンがある。
コロケーション
<人>が
人、【人名】
<人>を
女、彼女 、彼、子ども、体
解説
語義7は、「女性などに性的な暴行をする」という意味を表す。
誤用解説
強姦する、暴行する


8.無謀な行為他動詞上級
表記冒す
危険なことや困難なことに立ち向かう。
文型
<人>が<危険なこと・困難なこと>をおかす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
火災が起こったとき、彼は危険を冒して、子どもの救助を行った。
多くの困難を冒し、夢を叶えた。
荒天を冒して、船を出した。
激しい雨を冒して、仕事へ行った。
危険を冒していることはわかっていたが、投資を続けた。
(サッカーなどで)相手チームは、リスクを冒そうとせず、守備的に戦っている。
stairs親はね、自分がどんな危険に冒されても、子供を守りたいって思うものなのよ。
コロケーション
<人>が
私、あなた、人、【人名】
<危険なこと・困難なこと>を
危険・リスク・困難・嵐・悪天候・大雪・吹雪
解説
語義8は、「危険な・困難なこと(状況)」から逃げずに、無理をしてもそれに立ち向かい、乗り越えようとすることを表す。
誤用解説


侵す・犯す・冒すの全体解説 「おかす」のコアイメージは、越えてはいけない境界を破るという行為である。
相手(他者や状況など)の「抵抗・反発」を押し除けて何かするという意味合いがある。
























▶全例文を聞く
<人・組織>が
日本・韓国のニュース放送によれば韓国漁船がオホーツク海で漁撈中ソ連領海を侵し、不幸にもソ連当局に拿捕され、船長を始め船員全部がソ連当局に収容されたという。
(朴亨柱著;民涛社編 『サハリンからのレポート』, 1990, 369)
<境界・領域>を
スポーツを興行化するのは、崇高な領域を侵すように受けとられ、「プロ」との間には太く濃い一線が引かれる。
(杉山茂,岡崎満義,上柿和生編 『スポーツマネジメントの時代を迎えて』, 2005, 780)
小宮山氏は山内上杉氏の重臣で、その威勢を背景に岩付領を侵したのであろう。
(オメガ社編 『地方別日本の名族』, 1989, 288)
<人・組織・制度>が
伽奈が榊の私生活までを侵しはじめたのは、それからだった。
(多島斗志之著 『症例A』, 2003, 913)
そして本条は、国家がかように人民の財産権を侵してはならないことを定めたものである。
(山崎静雄著 『こわい新「ガイドライン」(新日米防衛協力の指針)の話』, 1997, 392)
<権利・権益・権威>を
国家が勝手に市民の所有権を侵すようなことを認めるわけにはいかないという原則なのである。
(遠藤浩,良永和隆著 『入門民法総則』, 2005, 324)
―お許しください、ついわれを忘れて法廷の尊厳を侵すようなまねをしてしまって―
(ベン・ジョンソン著;小田島雄志訳 『ヴォルポーネ・錬金術師』, 1996, 932)
<有害なもの>が
病気がすでに声帯を侵したのだと判断できた。
(W.S.モーム著;大岡玲訳・解説 『月と六ペンス』, 1995, 933)
三浦綾子さんは戦争中は学校の先生だったのですが、戦後結核になり、しかも結核菌が脊髄を冒すという、脊髄カリエスになってしまいました。
(出口和生著 『駅前不動産屋奮闘記』, 2005, 673)
<生物・自然>を
覚せい剤が、身体面ばかりか、精神面に強く作用し、後々まで影響を及ぼすのは確実にを冒し変化させていると思われます。
(千葉紘子著 『あした、青空』, 2003, 368)
そして血中に放たれたウイルスはヒトの体内で次々とリンパ球を冒していきます。
(Yahoo!知恵袋, 2005, 健康、病気、ダイエット)
<人・組織>が
一部の人たちが法を犯し、廃人になる危険を知りながらも麻薬のモルヒネに走るのは、それが気持ちがいいからです。
(春山茂雄著 『脳内革命』, 1996, 498)
<規則>を
悪いこととは「法やルールを無視してを犯しルールを破ること」だ。
(内海正彦著 『自然から学んだお爺ちゃんの知恵袋』, 2005, 498)
僕らが夜に乗じてこの船に来たのは、国禁を犯してのことだ。
(田中彰著 『松陰と女囚と明治維新』, 1992, 289)
<人・組織>が
日本では、ある人が犯罪を犯すと、その人のみならず、家族から親類にまで禍いが及んでしまう。
(下重暁子著 『女が30代にやっておきたいこと』, 1996, 159)
<悪いこと>を
彼は、自分が殺人を犯すつもりだったことを認めた。
(カーター・ディクスン著;田口俊樹訳 『第三の銃弾』, 2001, 933)
交通違反を犯している者を毎日当たり前のように目にしませんか?
(Yahoo!知恵袋, 2005, インターネット)
<人・組織>が
プログラミングがおもしろいのは,自分が犯したエラーから学べる点にある,と私は思います。
(岩谷宏著 『ひとつ上をゆくJavaの教科書』, 2005, 007)
が過去に犯した過ちはもう償うことはできない。
(マイクル・Z.リューイン著;田口俊樹訳 『男たちの絆』, 1996, 933)
<失敗>を
どんな状況でも、どんな失敗を犯したとしても、それでも自分を励まし、愛する事が出来るでしょうか。
(Yahoo!ブログ, 2008, 文化活動)
「部下を信用して仕事を任せていたのに、ミスを犯した」
(鴨下一郎著 『なぜか「人が集まる人」の共通点』, 1999, 159)
<人>が
野盗が美しい女を犯してその夫を殺したという事件を、四人の証言に基づく映像で描写した。
(日経サイエンス編 『養老孟司アタマとココロの正体』, 2003, 491)
<人>を
綾乃を公園で無理矢理犯そうとして逃げられ、それを追いかけたために、彼女は必死になって逃げた。
(伊島りすと著 『飛行少女』, 2002, 913)
<人>が
わたしが危険を冒して彼といっしょにいようとすればするほど、彼はわたしといっしょにいるために危険を冒すのをますますためらつた。
(エリカ・ジョング著;柳瀬尚紀訳 『飛ぶのが怖い』, 2005, 933)
<危険なこと・困難なこと>を
攻撃するためには、絶対にリスクを冒さなければならない。
(岩永修幸編 『蹴球神髄』, 2005, 783)
あくる朝、どしゃ降りのを冒して葡萄峠を越え、榊原氏十五万石の城下町村上に着いた。
(オール讀物, 2004, 文学/芸術)






























水俣病は、脳や神経が侵される病気なんだ。
親はね、自分がどんな危険に冒されても、子供を守りたいって思うものなのよ。
侵す・犯す・冒す(1グループ)の活用 ▶活用を聞く
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た形した
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