砕くのコアイメージ

1.物理的粉砕他動詞中級★★
表記砕く
かたまりを力を加えて粉々の状態にする
文型
<人・動物・もの>が<もの>を砕く
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
工事現場の方から重機が岩を砕く音がする。
そのボクサーはあごの骨を砕かれても、攻撃をやめようとはしなかった。
そのガラス職人は、弟子に作品を砕かせては何度も作り直しを命じていた。
ハイエナは獲物を骨ごと砕いて食べるほど強い顎を持っている。
「最近空手を始めたんだって。ずいぶん熱心に練習しているみたいだね」「ああ。うちの師匠はな、手の力だけで石を砕かれたすごい方なんだ。俺も早くああなりたい」
「どうしたの」「氷が大きくてグラスに入らないから砕こうと思うんだけど、アイスピックが見つからなくって」「それなら氷を袋に入れてすりこ木で叩くといいよ」
コロケーション
<もの>を
岩、石、骨、氷、頭
<手段>で
ハンマー、ミキサー、手、石、歯
<状態>に
粉々、○○の大きさ、微塵、○○状
<様態>に
あっという間、丁寧、無残、リズミカル
解説
ひとまとまりのものであれば、固形物でなくても用いることができる。
例:テトラポッドで波を砕いて波の力を抑える。
例:コーヒーゼリーを砕いて牛乳に入れると美味しいドリンクになる。
類義語・反義語
類義語粉砕する、粉々にする
反義語


2.人の思いの粉砕他動詞上級
表記砕く
希望・信念・思惑など、相手が心に描く思いを打ち壊す
文型
<人>が<思い>を砕く
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
本能の変で明智光秀は織田信長の野望を砕いた
「山田君、大分落ち込んでいるみたいだね」「ほら、同期の田中君が出世して部長になったじゃない。プライドを砕かれたんだと思うな」
将軍は圧倒的な兵の差で敵の戦意を砕かせた
(大学生の会話)「高橋先生の授業って面白いらしいね」「社会学の先生でしょ。学生の先入観を砕かれることで有名らしいよ」
(夫婦の会話)「圭太ったら将来漫画家になりたいんだって。思わず笑っちゃったわよ」「そんな風に夢を砕こうとするなよ。母親が息子の可能性を信じてやらないでどうする」
「あの会社、また賞味期限の偽装をしていたらしいよ」「またか。消費者の信頼を砕いていることが分からないのかな。もう二度と買う気にはなれないな」
コロケーション
<思い>を
① 未来に対する思い:夢、野望、希望、意志
② 相手に対する思い:信頼、戦意
③ 捉え方:先入観、幻想、虚構
④ 自我:プライド、意気地、魂、精神
類義語・反義語
類義語壊す、打ち砕く
反義語


3.相手の基盤の粉砕他動詞上級
表記砕く
相手がよって立つ基盤を打ち壊す
文型
<基盤>を砕く
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
大軍(たいぐん)をもって敵軍の力を砕いた
実験方法の誤りを指摘され、完璧だと思っていた根拠が砕かれてしまった。
先取点(せんしゅてん)を取った相手チームの勢いを砕かせようと、新たにフォワード選手を投入した。
「昨日の将棋戦、見ごたえあったね」「うん。やっぱり師匠はすごい方だよ。相手の完璧な守りを砕かれた瞬間は本当にびっくりした」
ディベート相手の論拠を砕こうとしたが、反論できる点が見つからなかった。
「昨日の大河(たいが)ドラマ見た?」「うん、次の戦いが気になるな。かなり強そうな敵だったね」「うん、でもあの武将はこれまでに何度も敵の勢力を砕いているから、きっと次も勝ってくれるよ」
コロケーション
<基盤>を
① 存立の基盤:力、主力、勢い、勢力、立場、守り
② 思考の基盤:論拠、根拠
類義語・反義語
類義語打ち砕く
反義語


4.打ち負かす他動詞上級
表記砕く
相手を打ち負かす
文型
<相手>を砕く
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
圧倒的な力であっという間に敵を砕いた
次の試合では必ず対戦相手を砕こうと作戦を練り上げた。
「またその本読んでる。お前って本当にその武将が好きだよな。なにがそんなにいいんだ」「お前はなにも分かっていないんだ。この方は奇策でもって何度も敵を砕かれたんだぞ。なかなかできることじゃないよ」
歴史書によると、織田信長軍は1560年に今川義元軍を桶狭間で砕いている
コロケーション
<相手>を
敵、相手
類義語・反義語
類義語打ち負かす
反義語


5.平易化他動詞上級
表記砕く、くだく
難しい内容や表現を分かりやすくする
文型
<人>が<内容・表現>を砕く
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
子どもにも分かるよう難しい話を砕いて説明した。
「山田先生のご講演、面白かったですね」「複雑な科学の仕組みを砕かれて解説してくださったから、本当に分かりやすかったですね。
この本は難解な言葉を使わずに表現を砕いているため、誰が読んでも理解できる。
「先生、私の論文、見ていただけましたか」「ええ。内容は良いのですが、もっと言葉を砕きましょう。難しい言葉を羅列しても読み手には伝わりませんよ」
stairsもう少し内容を砕いて説明したほうがいいね。
コロケーション
<内容・表現>を
内容、表現、話、言葉
類義語・反義語
類義語かみ砕く
反義語


6.挺身他動詞上級
表記砕く
何かを成すために力を尽くす
文型
<身>を砕く
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
新商品の開発に身骨(しんこつ)を砕いたが、他社に先を越されてしまった。
「どうしたんだ、ひどい顔じゃないか」「昨日も残業で3時間しか寝てないんだ」「身を砕いて働くっていうのは一昔前の考え方じゃないのか。もう少し自分を大切にした方がいいよ」
その作家は骨身(ほねみ)を砕いて長編歴史小説を書き上げた。
「山田先生、お亡くなりになってもう10年になるんだね」「うん。骨身を砕かれて研究に取り組まれていた姿が今でも忘れられないよ」
残りの人生は恵まれない子供たちのために身を砕こうと決意した。
「あの社長は会社のために肝胆(かんたん)を砕いているって言ってたけれど、実際は私利私欲の塊だったんだな」「ああ、がっかりだよ」
stairs自分の骨を粉にし、身を砕くほど仕事をがんばるサラリーマンをこう呼びました。
コロケーション
<身>を
身、骨身、肝胆、身骨
類義語・反義語
類義語(身を)捧げる、(骨身を)削る
反義語


7.気遣い他動詞上級
表記砕く
あれこれと気を遣って苦心する、配慮する
文型
<人>が<心>を砕く
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
病気がちだった弟にいつも心を砕く母に私は甘えることができなかった。
「社員旅行で泊まる旅館、佐藤さんのおすすめだそうですね」「ええ、あの旅館の女将は客へのもてなしにいつも心を砕いてくれるから、とても居心地がいんですよ」
他人の目が気になる人は、いらぬことに気を砕いているから疲れ切ってしまうのかもしれない。
山田先生は、不良の子ども達をなんとか正そうと心気(しんき)を砕かれていた。
社長は売上ばかり気にしていて、社員のことにはまったく気を砕こうとしない。
この病院のスタッフたちは、精神面のケアにも心を砕いている
コロケーション
<心>を
心、気、心気
類義語・反義語
類義語(心を)尽くす、(気を)配る、(気を)遣う
反義語


砕くの全体解説 「砕く」と「割る」の違い:
「砕く」は「粉々にする」、「割る」は「いくつかの部分に分ける」という語義の違いがある。そのため、砕かれたものは原形をとどめず修復が困難であるが、割られたものはいくつかの部分をつなぎ合わせることで修復が可能である。よって、語義2の「打ち壊す」という用法は、「砕く」は可能だが「割る」は不可である。
 夢を砕く
 夢を割る
























▶全例文を聞く
<もの>を
波は大きなエネルギーをもって,長い年月の間にを砕き,海岸を削りとる。
(高等学校地学Ⅰ, 2005, 高)
ガインの牙がアフリカ水牛の首のをもバキバキと砕く。
(剣鷹著 『鷹戦士F』, 2005, 913)
<手段>で
この床の下にはセメントが厚く塗られていたが、このセメントはつるはしでこなごなにくだかれていて、そのため手がつけられないほど取り散らかっていた。
(シムノン著;長島良三訳 『メグレ警視』, 1997, 953)
スープを作るため、凍りついたカリブーの肉をで砕かねばならない。
(星野道夫著 『星野道夫著作集』, 2003, 295)
<状態>に
老朽化した建物では、激震に耐えきれず、一瞬でこなごなに砕かれ、がれきの山になってしまったケースも目立った。
(川西勝著 『東京大震災は明日起こる』, 2001, 369)
さらに、脱脂された骨は粉状にくだかれて肥料になり、捨てられる部分はほとんどなかった。
(吉村昭著 『鯨の絵巻』, 1990, 913)
<思い>を
腕時計は前年のクリスマス用に、松永と揃いで買ったペアウオッチだから、甘美な生活を期待していた彼女にしてみれば、を砕かれた思いだった。
(佐木隆三著 『なぜ家族は殺し合ったのか』, 2005, 368)
保護者ばかりか父親役までも演じるこの夫たちは、弱味を見せてしまうと、自分に対する妻の信頼を砕き、かえって不安にさせるのではないかと恐れている。
(ペッパー・シュワルツ著;豊川輝,けい悦子,豊川典子訳 『結婚の新しいかたち』, 2003, 367)
速球王のプライドをしまいこむことで、江川は小林の、「あの江川」には負けまいとするプライドを砕いたのだ。
(江川卓ほか著 『たかが江川されど江川』, 1988, 783)
<基盤>を
もちろん広西省の確保により、連合軍の華南に対する攻勢に対応できること、不安な海上交通をおぎなう南方軍(寺内寿一大将・在サイゴン)との陸上交通を確立すること、重慶中国軍の主力をくだくことにより同政権の衰亡を策するねらいもあったが、とにかく主目的を航空基地覆滅にしぼったのである。
(益井康一ほか著 『B29戦略爆撃隊を壊滅せよ』, 1992, 916)
そこで、遅まきながら会議の席上でできるだけ経済学者以外の人たちにも分かるように配慮しながら、ローレンスの論拠を砕いた。
霍見芳浩著 『日本企業の悲劇』, 1992, 333)
<内容・表現>を
記事の内容は、学会報告の内容をくだいて分かり易く書いたものだが、記事の前文は、当時の世の中の放射線治療に対する認識の様子が分かって、何となくユーモラスでもある。
(塚本哲也著 『ガンと戦った昭和史』, 1995, 494)
<身>を
天下国家の為に肝胆を砕くということは尊い人道的精神であって、国士的感激のやむにやまれぬものであるが、之を抽象的に論じたり、感傷的に思うだけではなく、一たび実際問題として携わる時、そは実に容易ならぬ苦痛である。
(安岡正篤著 『王道の研究』, 2003, 311)
<心>を
悟郎たちの仲がうまくいくようにと、おきみは懸命にこころを砕いた。
(山本一力著 『あかね空』, 2001, 913)
オリゲネスは理論と同様に実践の面での養成にもを砕いているのである。
(小高毅著 『オリゲネス』, 1992, 198)






























もう少し内容を砕いて説明したほうがいいね。
自分の骨を粉にし、身を砕くほど仕事をがんばるサラリーマンをこう呼びました。
くびきを砕く

意味
思考や行動の自由を束縛するものを打ち壊す(主に聖書で用いられる表現)
用例
主は民のために圧政者のくびきを砕かれた
コーパスからの用例
「万軍の主、イスラエルの神はこう仰せられる、わたしはバビロンの王のくびきを砕いた。( 『ユダヤ思想』, 1998, 139)
手を砕く

意味
あれこれと工夫をする(古風な表現)
用例
その戦では一兵卒ながら手を砕き,粉骨の働きをして陣を守った。
コーパスからの用例
その権能を家康に一時うばわれてはいるもののその尊貴さは京の天子に次ぐ存在で、みずから手を砕いて戦さなどをすべきではない。 (司馬遼太郎著 『城塞』, 2002, 913)
複合動詞 V1

砕き割る
複合動詞 V2

打ち砕く、撃ち砕く、噛み砕く、読み砕く、すり砕く、つき砕く、踏み砕く、けり砕く
砕く(1グループ)の活用 ▶活用を聞く
アクセント型起伏型
辞書形
ない形くだない
~なかったくだなかった
ます形くだき
~ませんくだきま
~ましたくだきした
~ませんでしたくだきまんでした
~ときくとき
ば形けば
意向形くだ
て形いて
た形いた
可能形くだ
受身形くだか
使役形くだか
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