殺すのコアイメージ

1.生命の断絶他動詞初級★★★
表記ころす、殺す
人[組織・動物]が何らかの方法によって、生き物(特に、人や動物)を死に至らしめる。
文型
<人[組織・動物]>が<生き物>を殺す
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
最近、家族や身内を殺す事件が増えている。
放射線を用いて、癌細胞を殺す
ライオンがシマウマに殺されるなんて、聞いたことないよ。
兵士たちは、残虐な方法で住民たちを殺した
最近のモデルガンは、蜂などの昆虫くらいなら簡単に殺せる
テロ集団による無差別爆撃によって、多くの市民が殺された
コロケーション
<組織>が
国家、政府、軍、武装集団、マフィア、暴力団
<生き物>を
人、人間、子供、息子、親、家族、若者、兵士、住民、動物、猫、犬、ペット、細胞、菌、虫
<手段・方法・道具>で
残酷な方法、拷問、空爆、銃、手、剣、ナイフ、刀、薬、ガス、矢、武器
<原因(理由)・目的>で
浮気が原因、反逆罪、喧嘩、嫉妬、保険金目的、金目当て、口封じ
<場所>で
戦場、強制収容所、自分の部屋、シャワー室、実験室、路上、密室
<様態>
すぐ、次々と、あっさり、平然と、簡単に、平気で、短時間で、無残に、残虐に、一撃で、確実に、勝手に、密かに
非共起例
<人>が<人>を殺す
 山田先生が学生をお殺しになりました
 山田先生が学生を殺しました
「殺す」のような反社会的な意味を含む動詞は敬語表現(尊敬語)にしにくい。ほかにも「殴る、盗む、捕まる」のような動詞が挙げられる。
解説
語義1は、人や動物などの生き物に対して、刀や銃、毒などを用いて命を奪う、つまり死に至らしめることを表す。なお、「惜しい人を殺してしまった」のように、不注意など、自分の落ち度で人を死に至らしめることを表す場合もある。これと関連して、他動詞の中には「電柱に車をぶつけたためにドアが開かなくなってしまった」、「冷蔵庫の野菜を腐らしてしまった」などのように、自分の意志で行った行為でなくても用いられる場合がある。この時、「責任、後悔、失敗」の気持ちを表す場合が多い。さて、人間を「肉体」と「魂(精神)」に分けて考える立場があり、周辺的ではあるが「肉体を殺すことはできますが、魂を殺すことはできません」「いじめは心を殺す殺人だと考えている」などのような使い方もある。
誤用解説
生き物の命は一つしかないので、複数回「殺す」ことはできない。
 昨日、太郎を二度殺した
 戦争の記録を廃棄することは、戦没者を二度殺すことになる。
類義語・反義語
類義語死なす、死なせる
反義語生かす


2.生理現象・感情の抑制他動詞中級★★
表記ころす、殺す
人が生理現象や感情を人前に出さないようにする。
文型
<人>が<生理現象・感情>を殺す
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
夜中に目を覚ますと、キッチンで妻が声を殺して泣いていた。
チーターは気配を殺してそっと獲物に近づき、一気に襲いかかります。
自分の気持ちを殺して相手の気持ちを優先させることも、時には必要です。
刑事が闇の中で息を殺して、じっと犯人の様子をうかがっている。
いじめにあった経験がある人は、無意識のうちに自分の感情を殺してしまうケースが多いようです。
電車の中で若い女性が、口を開けて居眠りしている隣の席のおじさんを見て、声を殺して笑っている。
コロケーション
<人>が
警察、生徒たち、観客、兵士
<生理現象・感情>を
息、声、感情、欲望、気持ち、気配、思い、笑い、怒り
<様態>
じっと、一生懸命に、一斉に、必死に、思わず、そっと、静かに、ひっそりと
非共起例
<生理現象>を殺す
 くしゃみを殺す
 くしゃみを我慢する
 涙を殺す
 涙をこらえる
意志によるコントロールが難しい生理現象には使いにくい。
解説
語義2は、語義1と異なり、働きかける対象は(人間の)生理現象や感情である。語義1は人や動物の命を奪うことによって、(結果的に)動かない状態にするということを表すが、語義2は(人間の)生理現象や感情に対して、それを人前に出さないようにするということを表す。つまり、声であれば「聞こえないようにする」ということであり、息であれば「呼吸の音を出さない」ということである。ただし、いずれも「(ある対象に対して)動的な状態から、静的な状態に変化させる」という点では共通している。なお、一般的には人間に対して使われるが、「狼が気配を殺して忍び寄る」のように、動物の場合に用いられる場合もある。
誤用解説
生理現象や感情などは基本的に一人で行うものであるため、動作の仲間を表す「と一緒に」とは共起しにくい。
 友達と一緒に感情を殺した
 友達と一緒にネズミを殺した。(語義1)
類義語・反義語
類義語こらえる、我慢する
反義語


3.能力・特性の抑制他動詞中級★★
表記ころす、殺す
人が、自分または他の人や物が持つ(本来の)能力や特性などを発揮・発現できないようにする。
文型
<人>が<(人・ものの)能力・特性>を殺す
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
ハーブを使って、魚や肉の臭みを殺す
自分の個性を殺してまで、人に迎合する必要はないと思う。
レモンをかけすぎると、魚自体のうま味を殺してしまう。
あのピッチャーは、スピードを殺したカーブを投げるのが得意だ。
無能な上司が優秀な部下の能力や才能を殺してしまうケースは少なくない。
炒め物にゴマ油を入れすぎると、他の材料の味を殺してしまうので気をつけましょう。
コロケーション
<人>が
(無能な)上司、ピッチャー、教師、監督、運転手
<能力・特性>を
才能、能力、魅力、旨み、持ち味、臭み、人格、利点、個性、(打球の)勢い、スピード
<手段・方法・道具>で
あの手この手、組織の圧力、ブレーキ、見事なコントロール、斬新な方法、加熱、香辛料、日本酒、生姜
<様態>
簡単に、一気に、数秒で、ことごとく、確実に、ちゃんと、しっかり
非共起例
<人>が<能力>を殺す。
 先生が学生の英語力を殺す
 先生が学生の個性を殺す
学習により身につけた、単なる実力などには用いられない。
解説
語義3は、語義1と異なり働きかける対象が、人や物が持つ(本来の)能力や特性である。語義1は人や動物の命を奪う、つまり命の存続を断絶するということを表すが、この語義3は人や物が持つ能力や才能、特性が発揮・発現できないようにするということを表す。ただし、いずれも「ある対象物が存在しつづけないように、断絶・遮断する」という点では共通している。なお、「調味料が素材の持ち味を殺すことになってはいけない」「ハーブは肉の臭みを殺してくれる効果がある」などのように、もの(の作用)が主語として用いられる場合もある。
誤用解説
何らかの能力や特性として捉えられなければ、用いることができない。
 彼の身長を殺してしまった。
 (昨日の試合では)彼の高身長の利点を殺してしまった。
類義語・反義語
類義語消す、損なう
反義語生かす


4.活動・動作の制止他動詞中級★★
表記ころす、殺す
スポーツや勝負事などで、人が相手に対して何らかの方法によって活動や動作をできないようにする。
文型
<人>が<相手(身体部位)・道具>を殺す
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
牽制球で、走者を殺してピンチを凌いだ。
中手とは、囲碁で相手の石を殺すために用いる手法のことです。
(相撲で)相手の差し手を殺して一気に寄る。
ピッチャーとショートの見事な連携プレーでランナーを殺した
横綱は利き腕を殺されても慌てることなく、落ち着いて相手を押し出して連勝を飾った。
二局目は序盤でいきなり隅の石を殺され、呆気なく負けてしまいました。
コロケーション
<人>が
野手、キャッチャー、横綱、(囲碁で)名人
<相手(身体部位)・道具>を
打者、走者、ランナー、相手バッター、差し手、利き腕、右肘、白石、隅の石
<手段・方法>で
牽制球、連携プレー、好守備、素晴らしい送球、上手ひじ(で差し手を殺す)、同じやり方
<様態>
簡単に、あっさり、呆気なく、速攻で、一瞬で、確実に、あっという間に
非共起例
<相手>を殺す
 (サッカーで)相手チームのエース・ストライカーを殺す。(語義1はOK)
 (サッカーで)相手チームのエース・ストライカーを抑える[封じる]
基本的に、野球で打者・走者をアウトにする場合に用いられる。
解説
語義4は、語義1と異なり、スポーツや勝負事などの対戦相手が問題となっている。語義1は人や動物の命を奪うことによって、(結果的に)動かない状態にするということを表すが、語義4は対戦相手に対して何らかの方法によって、それ以上試合・競技が継続できないようにするということを表す。ただし、いずれも「ある人に対して、それ以上活動・動作ができない状態にする」という点では共通している。なお、この語義4は特に野球において、打者・走者をアウトにするということを表す場合が多い。また、相撲では相手の差し手の働きを封じるということを表す。さらに、囲碁では相手の石を攻めて目が二つ以上できないようにするということを表す。
誤用解説
身体部位の場合、基本的に相撲で、相手の差し手の働きを封じることを表す場合に用いられる。
 相手の足を殺す
 相手の足を止める
 相手の差し手を殺す
類義語・反義語
類義語抑える、封じる
反義語生かす


5.誘惑・悩殺他動詞上級
表記ころす、殺す
人が美貌や性的魅力によって異性を夢中にさせる。
文型
<人>が<人>を殺す
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
最近流行りの歌で心を射抜いて、ファンを殺す
キュートなアイドルが、投げキスで観客を殺す
彼女のあの視線は、まさに男を殺す眼差しだよな。
演歌の王子様が、流し目で女性ファンを殺す
あの役者と言えば、かつて女性を目で殺すことで有名だった。
絶句の一節に「糸屋の娘は目で殺す」という表現があるが、「糸屋の娘は妖艶な目をしていて、とても綺麗だ」という意味である。
stairs今日のコンサートで、リョウくんと目が合って、目で殺されちゃったんだって。
コロケーション
<人>が
若手俳優、人気アイドル、演歌の王様、あの役者、人気歌手
<人>を
女性ファン、男性、観客、女性のギャラリー、若い女の子、世のおじさん達
<手段・方法>で
目、流し目、鋭い目つき、瞳、笑顔、投げキス
<様態>
一瞬で、数秒で、簡単に、瞬時に、確実に、笑みを浮かべただけで
非共起例
<人>を殺す
 華麗なシュートでゴールを決め、ファンを殺した
 華麗なシュートでゴールを決め、ファンを魅了した
 キュートな笑顔で、ファンを殺す[魅了する]
基本的に、異性の美貌や性的魅力に惹かれた場合に用いられる。
解説
語義1は、問題となる対象が人や動物の命であるのに対して、語義5では人の(異性に対する)心情となっている。さて、一般的に異性の美貌や性的魅力に惹かれて夢中になった場合、放心状態になりボーっとしたり、周りのことは何も目に入らなくなったりすることが多い。このような状態は、語義1の人や動物が殺され、(結果的に)活動・動作ができなくなった状態と似ている側面がある。つまり、別義1と別義5は、このような類似性に基づき意味が成り立っていると考えられる。
誤用解説
基本的に、恋愛の対象となる異性に対して用いられる。
 愛娘の笑顔に殺されそうになる
 愛娘の笑顔にメロメロになる
類義語・反義語
類義語悩殺する、惑わせる
反義語


殺すの全体解説 各語義の解説をご覧ください。
























▶全例文を聞く
<生き物>を
なんの罪もない人間を殺すのは、人間不信があるからだろうか。
(佐木隆三著 『音羽幼女殺害事件』, 2001, 368)
<手段・方法・道具>で
「今、五人のアラブ人が、ナイフで片っ端から乗客と乗務員を殺している」
(中澤昭著 『9・11、Japan』, 2002, 916)
どこかに勝気なところがあって、将来私が浮気でもしようものなら、あの青酸カリで私もこの女から殺されそうな予感がしてきて、私はゾクゾクと寒気がして身体が震えた。
(大磯輝男著 『異國に祈る』, 2002, 916)
<原因(理由)・目的>で
「チトーの時代になると、共産主義者ではないという理由だけでこの町の七〇〇〇人の市民が殺されたのだ」
(木村元彦著 『終わらぬ「民族浄化」セルビア・モンテネグロ』, 2005, 316)
アキは金目当てで殺したが,血を見て動転して盗まなかった。
(Yahoo!ブログ, 2008, Yahoo!ブログ)
<様態>
北朝鮮では、多くの人間がささいなことで収容所に送られ、無残に殺されている。
(長谷川慶太郎著 『次の世界が見えた』, 2004, 304)
<生理現象・感情>を
を殺して待つことしばし、忍び足が接近してきた。
(佐伯泰英著 『秘剣雪割り』, 2002, 913)
二十年流人でがまんして来ただけあって、自分の感情を殺すことにはなれている。
(永井路子著 『北条政子』, 1978, 913)
<様態>
闇の中に座ったまま、ただじっと息をころしてなにかを待っているということは、だれにしても、たえがたい不安におそわれるものだ。
(アガサ・クリスティー著;田村隆一訳 『邪悪の家』, 2004, 933)
<能力・特性>を
粉茶は玉露などの高級茶葉のように香りが立たず、また、旨味も少ない。 それゆえにすしの持ち味を殺さないとして、価格とは別の理由でこれを使う向きもある。
(日比野光敏著 『すしの事典』, 2001, 383)
そこで、粘っこく、大さばきを避けるような指し方をしていたが、策士策におぼれるで、自分の長所を殺してしまい、あげくに、KOパンチを食ってしまった。
(河口俊彦著 『新・対局日誌』, 2001, 796)






























今日のコンサートで、リョウくんと目が合って、目で殺されちゃったんだって。
小の虫を殺して大の虫を生かす

意味
大きなもののために小さなものを犠牲にすること。つまり、全体を生かすために一部分、または比較的必要でない部分を犠牲にすることのたとえ。「小の虫を殺して大の虫を助ける」「大の虫を生かして小の虫を殺す」とも言う。
用例
小の虫を殺して大の虫を生かすという大義名分のもとに、特定の地域に軍事施設が集中的に配置された。
コーパスからの用例
「都を逆賊に奪われれば、取り返しがつかぬ。小の虫を殺して大の虫を生かすのじゃ」師直は北朝も源馬の霊神も虫にしてしまった。(森村誠一著 『太平記』, 2005, 913)
虫も殺さない[殺さぬ]

意味
虫さえも殺せないほど、優しくておとなしい人のたとえ。
用例
あの看護師さん、虫も殺さない顔をして結構きついこと言うね。
コーパスからの用例
デビューしたては虫も殺さぬような顔をした純情娘が、人気が出て化けると、とたんに昔から姫君であったようにふるまい、マネージャーをアゴで使い、肩で風を切ってのし歩き、高級車を乗りまわし、安物の声で一人前の口をきいて、年寄りへむかって、「あたしはオヤジ嫌いなんだよ」とぬかし、頭がカラッポだからスタイルだけが自慢で、しゃべりおろしの本を出し、これがひどい内容なのにけっこう売れて、また偉そうになり、いっぱしの知識人気取りで、かわいこぶって、ワイン通を気取り、チヤホヤされて性格の悪さにみがきがかかる。(嵐山光三郎著 『断固、不良中年で行こう!』, 2000, 914)
複合動詞 V1

打ち殺す、押し殺す、噛み殺す、切り殺す、食い殺す、蹴り殺す、刺し殺す、絞め殺す、叩き殺す、突き殺す、取り殺す、ひき殺す、捻り殺す、踏み殺す、ぶち殺す、ぶっ殺す、干し殺す、焼き殺す
複合動詞 V2

殺し文句、殺し屋、子殺し、嬲り殺し、褒め殺し
殺す(1グループ)の活用 ▶活用を聞く
アクセント型平板型
辞書形ころす
ない形ころさない
~なかったころさかった
ます形ころし
~ませんころしま
~ましたころしした
~ませんでしたころしまんでした
~ときころすとき/ころす
ば形ころ
意向形ころ
て形ころして
た形ころした
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