貸すのコアイメージ

1.ものの一時的所有他動詞初級★★★
表記貸す
借り手にとって必要なものを、後で貸し手に返すという約束のもとで、一時的に与える。
文型
<貸し手>が<品物>を<借り手>に(対して)貸す
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
兄が弟にネクタイを貸した
ちょっとだけ消しゴムを貸してくれる?
海に行くので友人に車を貸してもらった。
貴重な蔵書をお貸しくださり、有り難うございました。
試験が近いので、ノートを貸してくれる人を見つけないと。
このまえ貸してあげたの、面白かった?
コロケーション
<貸し手>が
(人名)、銀行、国、公庫
<借り手>に
(人名)、他人、友達、企業、(国名)
<借り手>に対して
企業、(国名)、被告人
<品物>を
金、車、本、傘、電話
<条件>で
低金利、〜円、無料、〜という条件
<態度>
喜んで、気前よく、積極的に、しぶしぶ、こっそり、そっと
<量>
たっぷり、そっくり、いくらか、ちょっと
非共起例
<借り手>へ
 兄が弟へネクタイを貸した。
 兄が弟にネクタイを貸した。
場所の移動ではなく、(一時的な)所有権の移動であるため、「へ」は使いにくい。
解説
物品が部分的に消費される場合(消しゴム、ライター、化粧品・医薬品など)にも使われる。
(文化的情報)業者による商行為ではなく、知人の間で高価でない物品を略式に貸すときは、文化によって貸し手と借り手という関係をどこまで意識するかが異なる。日本の文化では、例えばクラスで隣にいる学生の消しゴムを一時的に使う場合でも「貸し借り」の関係が意識されるので、使うときにはていねいに依頼し(「悪いけど、ちょっと貸してくれる?」)、貸し手の厚意に感謝を表す。日本の文化では、小さいものでも貸し借りは相手の領域に踏み込む行為なので、借り手は可否の確認が必要となる。例えば仲の良いルームメイトであっても、その人が持っているアクセサリーなどを断りなく勝手に使ってしまうと、日本の文化では非常に乱暴で礼儀を知らない行為と見なされる。これは西洋的な「個人の所有物」という概念が強くはたらいているというよりは、公的なものでなくても人との接触には手順を踏む必要がある、という日本における通念の反映と思われる。
誤用解説
他人の日焼け止めクリームを一時的に使わせてもらう場合、「日焼け止めクリームを貸してもらう」と言える。しかし、他人のアイスクリームを一時的に食べさせてもらう場合は、「×アイスクリームを貸してもらう」とは言えず、「○アイスクリームを少しもらう」と言うことになる。貸し借りは、「使う」ことを目的とする場合にしか成り立たないのである。
類義語・反義語
類義語貸与する
反義語借りる


2.空間の一時的所有他動詞初級★★★
表記貸す
借り手にとって必要な空間を、後で貸し手に返すという約束のもとで、一時的に与える。
文型
<貸し手>が<空間>を<借り手>に貸す
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
ここの地主は休耕地を坪単位で貸している。
学生に部屋を貸すことにした。
夫婦は、いい人に家を貸したと喜んだ。
うまい話があっても安易に土地を貸さない方がいい。
トイレを貸してもらいたくても断られることは案外多い。
駐車場をラーメン屋に貸すことにした。
コロケーション
<貸し手>が
(人名)、地主
<空間>を
部屋、家、土地、建物、店
<借り手>に
(人名)、企業、店
<用途>として
会場、店舗
非共起例
<借り手>へ
 学生へ部屋を貸す。
 学生に部屋を貸す。
貸すもの(空間)は移動しないため「へ」は使いにくい。
誤用解説
「借りる」と違って、<場所>を「に」格で表しにくい。
 不動産屋は駅前に家を貸した。
 不動産屋は駅前の家を貸した。
 Aさんは郊外に家を借りた。
類義語・反義語
類義語貸与する
反義語借りる


3.助力他動詞中級★★
表記貸す
借り手にとって必要な無形の資源を、借り手に与えることによって助ける。
文型
<助力者>が<受益者・行為[結果]>に<助力>を貸す
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
ちょっと手を貸してください。
メディアが政権の延命に力を貸してきた。
若者がお婆さんが横断歩道を渡るのに手を貸した
知らないうちに、不正な経理に手を貸してしまった。
困ったときに力を貸してくれた人のことは決して忘れない。
あなたがあの団体に知恵を貸したという事実は重要だ。
stairsお婆さんが横断歩道を渡るのを手を貸してあげてるよ。
コロケーション
<助力者>が
人、財団、裁判所
<助力>を
手、肩、力、知恵
<受益者>に
人、会社、政権
<行為[結果]>に
計画、作戦、企て、脱出、逃亡、操作、措置、発展、~が[の]~するの
<目的>に[に向けて]
実現、捜索、解決
<態度>
喜んで、進んで、すぐに、不正を承知で
非共起例
<助力>を
 口を貸す
 目を貸す
身体部位では、動作の物理的な助けにならない部分(口や目)は「貸す」対象にならない。
解説
与えるものが無形なので、特に貸し手の意図がない場合には、借り手が助力を受けたと認識しない場合がある(「気づかれないように力を貸した」)。
<助力>が望ましい結果をもたらす場合は、<受益者>が「恩」を受ける。これは金銭的なものや契約によるものではないが、<受益者>が<助力者>に「恩を返す」ことが期待される。実際には具体的な行為によって「恩を返す」ことはできなくても、そうする意志を持つことが望ましいという倫理観が日本文化にはある(「あなたは私たちが困ったときに力を貸してくれたので、今こそ恩返しをしたい」)。
誤用解説
ある原因によって誘発される結果の場合、特に「手」などでは、好ましくない結果を表す方が自然になる。
 教授陣の真摯な教育活動が、海外への知識流出に手を貸す形になった。
 教授陣の真摯な教育活動が、大学の国際化に手を貸す形になった。


貸すの全体解説 各語義の解説をご覧ください。
























▶全例文を聞く
<貸し手>が
政府系金融機関が金を貸すことにより、中小企業はかろうじて生きている。
(大下英治著 『小泉純一郎vs.抵抗勢力』, 2002, 913)
<借り手>に
マーシャ・ウィネットに車を貸したレンタカー営業所の男は、あまり話し好きとはいえなかった。
(E.S.ガードナー作;堀内一郎訳;オノビン絵 『ペリー・メイスン』, 2001, )
<品物>を
デリー市当局は凍死を防ぐため、市内十数ヵ所にテントを張り、家のない人々に毛布を貸して寝泊りさせていた。
(五島昭著 『インドの大地で』, 1986, 302)
<条件>で
T君のご好意で、ヤントの運転によるベンツを一日貸してもらうことにする。
(今田述著 『トワン、ガンバルか?』, 1990, 302)
<態度>
枕銭も置かないのに、そうじはゆきとどいているし、辞書だってアイロンだって爪切りだって傘だって気やすく貸してくれる。
(室井滋著 『まんぷく劇場』, 2003, 770)
<量>
彼女が必要なら、ギルはいくらでも金を貸してあげたくなった。
(ジュディ・クリスンベリ作;本多しおり訳 『キスは厳禁!』, 2001, 933)
<貸し手>が
その場合,必要とされる土地を,所有者が利用者に貸す,利用者が所有者から借りる,という関係が成立する。
(岩村等著 『入門日本近代法制史』, 2003, 322)
<空間>を
「管理人の話では、九階の部屋を、つい二週間ほど前に外国人の男に貸したばかりだそうだ。
(森詠著 『新宿流氓』, 2002, 913)
<借り手>に
この度、私が所有している古家を知人に無償で貸すことになりました。
(Yahoo!知恵袋, 2005, 法律、消費者問題)
<用途>として
市の管理地だから、市がするべきだと思う方もあるでしょう(年間を通して何回か市がしてくださいます)が、保育園や老人会の運動会に会場として貸して」貰うのだから、せめてその直前の除草作業ぐらいは、借りる私たちがしても当然だと思います。わたしって間違っていますか?
(Yahoo!ブログ, 2008, Yahoo!ブログ)
<助力者>が
変化は選手たちの待遇面にも現われ、ミラーが力を貸したおかげで、著しく改善された。
(アイラ・バーカウ著;新庄哲夫訳 『ヒーローたちのシーズン』, 1990, 780)
<助力>を
その業種の専門家ではないことを認めて、一緒に仕事をする人に知恵を貸してもらうのも大切です。
( 『人気レストランの空間デザイン』, 2004, )
<受益者>に
フィリップは老婆に肩を貸して、立ち上がらせた。
(森詠著 『戦場特派員』, 1996, 913)
<行為[結果]>に
「ゲシュタポのミューラー大佐は、あなたが重要犯罪人の逃亡に手を貸したと疑ってますよ。
(シドニィ・シェルダン著;天馬竜行,紀泰隆訳 『真夜中は別の顔』, 1992, 933)
<目的>に[に向けて]
社会の構成員の一人として、犯罪解決に力を貸そうとは考えないのだろうか。
(島田荘司著 『三浦和義事件』, 2002, 913)
<態度>
ですから、子どもの心身の発達に合わせてそっと手を貸し、見守ることが大切です。
(川上義監修 『目で見るパパとママの小児科入門』, 2002, 598)






























お婆さんが横断歩道を渡るのを手を貸してあげてるよ。
貸しがある

意味
貸した金品がもとに戻っていない。
用例
彼には5万円の貸しがある。
コーパスからの用例
いつも遊ぶときは私におごらせておいて、時にはお金がないからといって雑誌を買わせたりして事実上3000円以上の貸しがあります。 (Yahoo!知恵袋, 2005, メンタルヘルス)
意味
助力者が、借り手や受益者から十分な見返り・謝礼を受け取っていない。
用例
甥っ子には、受験勉強を手伝ってやったという貸しがある。
コーパスからの用例
君には何年分ものキスの貸しがあるんだ」 (キャサリン・ジョージ作;大澤晶訳 『誤解の代償』, 2001, 933)
貸し借り無し

意味
金銭的な利害関係、恩と義務、感情的な利害などが最終的に解消されたイーブンな状態。
用例
手伝ってもらった分、手伝ってあげたから、これで貸し借りなしです。
コーパスからの用例
「これで貸し借りなしね」ニーカは手を離させた。 (クリスティン・キャスリン・ラッシュ著;木村由利子訳 『白い霧の予言』, 1993, 933)
庇(ひさし)を貸して母屋(おもや)を取られる

意味
家の庇の下という限られた部分を他人に利用させて(例えばそこで何かの営業をすることを許す)、その結果、意図しないにもかかわらず、貸した人が住む家全体を庇を貸した他人に奪われてしまう。部分的な助力をした結果、不当にも大規模な損失にあってしまうことをいう。
用例
よく考えずに求めに応じたら、庇を貸して母屋を取られることになってしまった。
胸を貸す

意味
上位の者が余裕をもって下位のものに対応する。(もともとは相撲のぶつかり稽古で、上位の力士が下位に力士に対して正面からぶつからせて、それを避けずに自分の胸でしっかり受け止める形になることをいう。)
用例
剣道部の先輩は、未熟な僕に胸を貸して練習に付き合ってくれた。
コーパスからの用例
北の湖関はそのときはまだ休場中で、若い者に胸を貸すかたわら土俵の隅で小さな鉄亜鈴をもてあそんでいた。 (日本ペンクラブ編;泉麻人選 『おすもうさんのおしり』, 1993, 914)
意味
顔を隠して泣けるよう、胸にもたれかからせる。
用例
颯太は泣きじゃくる美咲に胸を貸した
コーパスからの用例
近ごろ弱さを見せすぎていることは自覚していたけど、タッちゃんの胸を貸してもらうだけで気持ちを持ちなおすことが出来ていたのは事実。 (Yahoo!ブログ, 2008, 文学)
耳を貸す

意味
主体となる者が別の者の発言に意図的に注意を向ける。
用例
政府は国民の世論に耳を貸そうとしない。
コーパスからの用例
だが私の叫びに耳をかす者は多くなかった。 (半村良著 『ぐい呑み』, 1990, 913)
顔を貸す

意味
主体となる者が別の者に会う、または別の者がいる場所に現れる。特に何かの相談や作業に参加する。(主体の意志に反して行うことが多い。)
用例
社長のところまで顔を貸せ
コーパスからの用例
そう、浅草など歩いていると『おい顔を貸せ』などといつて、よく観音裏の材木置場などへつれて行かれたものだが、金をゆすつても昔の与太者は帰りの電車賃だけは、ちやんとのこしてくれたものだ。 (坂口安吾研究会編 『安吾からの挑戦状』, 2004, 910)
複合動詞 V1

貸し込む、貸し始める、貸し続ける、貸しおく、貸しまくる、貸し得る、貸し与える、貸し出す、貸しつける、貸し渋る、貸し切る、貸し越す
複合名詞

貸し倒れ、高利貸し(×高利貸す;高利で貸す)、信用貸し(×信用貸す;信用貸しをする)、又貸し(×又貸す;又貸しをする)
貸す(1グループ)の活用 ▶活用を聞く
アクセント型平板型
辞書形かす
ない形かさない
~なかったかさかった
ます形かし
~ませんかしま
~ましたかしした
~ませんでしたかしまんでした
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