隠すのコアイメージ

1.見られないようにする1他動詞初級★★★
表記かくす、隠す
人や動物が、身体の一部やものに、別の身体の一部やものを置いたり、重ねたりすることで、他の人や動物に見られないようにする
文型
〈人・動物〉が〈身体の一部・もの〉で〈身体の一部・もの〉をかくす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
彼女は笑うとき、手で口をかくす
前髪で額の傷をかくしている
首のしわは化粧でかくせません
ズボンのよごれを上着でかくした
泣いているのを見られたくなかったので、タオルで顔をかくしていた
生徒は書いた答えを教師に見られないように、手でかくした
コロケーション
〈身体の一部・もの〉で
(両)手、髪、タオル、マスク、化粧
〈身体の一部・もの〉をかくす
顔、口(元)、しわ、よごれ、答え
〈様態〉かくす
いつも、ずっと、しっかり、こっそり
非共起例
〈もの〉で〈もの〉を{かくす}
 シーツでふとんをかくす
 シーツでふとんのしみをかくす
「かくす」は、ものに別のものを置いたり、重ねたりすることで、他の人や動物に見られないようにすることである。シーツをふとんの上に置いても、ふとんの形状は変わらず、ふとん全体を見えなくすることはできない。よって、上に置いたり、重ねたりするものは、下のものの形状を見えなくするものである必要がある。ふとん全体ではなく、ふとんの一部についているしみであれば、(色のついた)シーツをかけることで、見えなくすることができるので、「シーツでふとんのしみをかくす」は適切な表現となる。
解説
人や動物が、身体の一部やものを他の人や動物に見られないようにするために、別の身体の一部やものを置いたり、重ねたりすることを表す。この語義1が最も基本的な意味である。
誤用解説
「かくす」はあるものの上に別のものを置くなどして、あるものを人に見られないようにすることである。よって、悲惨な状況が視界に入らないようにする場合には、「手で目をかくす」ではなく、「手で目をおおう」と言う。「手で目をかくす」と表現すると、自分の目を他の人に見られないようにするという意味になる。
 悲惨な状況に耐え切れず、手で目をかくした
 悲惨な状況に耐え切れず、手で目をおおった
類義語・反義語
類義語おおう、かける
反義語見せる


2.見られないようにする2他動詞初級★★★
表記かくす、隠す
人や動物が、身体(の一部)やものを、あるところに置いたり入れたりすることで、他の人や動物に見られないようにする
文型
〈人・動物〉が〈ところ〉に〈身体(の一部)・もの〉をかくす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
兄に飲まれないように、棚の奥に酒をかくした
通帳は誰にも見つからない場所にかくしてある
急な来客で、床に散らかっていた洗濯物をとっさに押し入れの中にかくした
今、背中の後ろにかくしたものは何?
敵に見つからないよう、岩の陰に身をかくして夜明けを待った。
彼は右手をふところにかくしたままでいる。
コロケーション
〈ところ〉に
箱の中、机の下、押し入れの奥、岩陰、背後
〈身体(の一部)〉を
身、姿、手、指、爪
〈もの〉を
お金、通帳、宝物、酒、日記
〈様態〉かくす
とっさに、こっそり、いったん、しばらく、わざわざ
非共起例
〈ところ〉に〈身体(の一部)〉を
 岩の陰に体をかくして夜明けを待った。
 岩の陰に身/姿をかくして夜明けを待った。
人や動物が、他の人や動物に姿を見られないような状態で、あるところにいることを表す場合、「〈ところ〉に身/姿をかくす」と表現する。「〈ところ〉に体をかくす」などとは言わない。
解説
語義1と語義2は「人や動物が、身体の一部やものを他の人や動物に見られないようにする」という意味は共通であるが、そのために、語義1は身体の一部やものに別の身体の一部やものを置いたり、重ねたりするという方法をとるのに対し、語義2は身体(の一部)やものをあるところに置いたり入れたりするという方法をとる点で異なる。
誤用解説
身体(の一部)やものをあるところに置いたり入れたりするのは、身体(の一部)やものを人に見られたくない理由があるからである。そのため、単に身体(の一部)やものを他の人や動物に見えない場所に置くという場合には「かくす」を用いることはできない。その場合には「しまう」と表現したほうが適切である。
 そろそろ秋物の服を出して、夏物の服はかくそう
 そろそろ秋物の服を出して、夏物の服はしまおう
類義語・反義語
類義語しまう、おさめる
反義語見せる


3.知られないようにする他動詞中級★★
表記かくす、隠す
人や組織が、あることを、他の人や組織に、知られないようにする
文型
〈人・組織〉が(〈人・組織〉に)〈感情・性質・物事〉をかくす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
彼女はつらい気持ちをかくして明るくふるまっている。
彼はクラスメートに弱点をかくし続けている。
政府が国民に重要な情報をかくしている
犯人グループは正体をかくし、乗客に紛れ込んだ。
私は職場の人たちに病気をかくしていた
主人公は自分の過去をかくし、ひっそり暮らしていた。
stairs隠してもわかるのよ。
コロケーション
〈組織〉が
犯人グループ、政府、マスコミ、警察、企業、機関
〈感情〉をかくす
動揺、困惑、怒り、失望、いらだち
〈性質〉をかくす
弱点、欠点、本性、気性、力
〈物事〉をかくす
身分、事実、情報、病気、過去
〈様態〉かくす
まだ、ずっと、わざと、あえて、実は
非共起例
〈人・組織〉が(〈人・組織〉に)〈感情・性質・物事〉をかくす
 マスコミは被害者のプライバシーをかくすべきだ
 マスコミは被害者のプライバシーを守るべきだ/尊重するべきだ
被害者のプライバシーのように、他者から干渉を受けない権利があることを、人に知られないようにする場合には「かくす」ではなく、「守る」や「尊重する」と表現する。
解説
語義1はある人や動物が有する身体の一部やもののような具体物を、他の人や動物に見られないようにすることであったが、語義3は人や組織が有する感情や情報のような抽象物を他の人や組織に知られないようにすることを表す。このように、語義1が対象とするのは「具体物」であるが、語義3が対象とするのは「抽象物」である。
誤用解説
「無限の可能性」のように、本人も気づかないうちに備わった力を、人に知られない状態で有している場合には「かくす」を使うことができない。その場合には「秘める」と表現したほうが適切である。「かくす」は本人も自身の力に気づいているが、それを故意に人に知られないようにすることを表す。よって、「彼女は本当の力をわざとかくしている」は適切である。
 彼女は無限の可能性をかくしている
 彼女は無限の可能性を秘めている
 彼女は本当の力をわざとかくしている
類義語・反義語
類義語秘める、秘する
反義語あらわす、あばく


4.見えなくする他動詞中級★★
表記かくす、隠す
ものが別のものに重なることで、下にあるものを見えなくする
文型
〈もの〉が〈もの〉をかくす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
長い雲が三日月の下半分をかくした
皆既日食とは、太陽が月にかくされてしまう現象です。
帽子のつばが彼女の目元をかくしている
ファンデーションが肌のくすみをかくしてくれる
ワンピースが彼女の体形をかくしている
池に泥水が流れ込み、魚の姿が泥にかくされてしまった
コロケーション
〈もの〉が
雲、月、壁、服、化粧
〈もの〉をかくす
太陽、月、星、体形、よごれ
〈様態〉かくす
いつも、しっかり、きれいに
非共起例
〈もの〉が〈もの〉を
 落ち葉が道をかくしている
 落ち葉が道をおおっている
道の表面に落ち葉が敷き詰められ、道の表面が見えなくなっている状態を、「落ち葉が道をおおっている」と言うことはできるが、「落ち葉が道をかくしている」と言うことはできない。「かくす」はあるものが別のものの上に重なることなどによって、あるものを見えなくすることを表す。
解説
語義1は「人や動物が、ものに別のものを置いたり、重ねたりすることで、他の人や動物に見られないようにする」というように、人や動物の行為によるものであったが、語義4は「ものが別のものに重なることで、下にあるものを見えなくする」というように、物の作用によるものであるという違いがある。
誤用解説
話し手と太陽との間に木々があることで、太陽光線が話し手側に届かないことを「かくす」と表現すると不自然な表現となる。「かくす」は、話し手と太陽との間に木々があることで、太陽自体が見えなくなる場合に用いる。よって、この場合には「さえぎる」を用いて表現した方が良い。
 太陽光線が木々にかくされているので、暑くない。
 太陽光線が木々にさえぎられているので、暑くない。
類義語・反義語
類義語さえぎる、おおう
反義語あらわす


隠すの全体解説 各語義の解説をご覧ください。
























▶全例文を聞く
〈身体の一部・もの〉で
大木が、うわあ恥ずかしかあ、と少女のように両手で顔を隠した。
(現代文, 2007, 高)
その斜面の上には、用心深く藪やでかくされた洞穴の入り口がある。
(R.A.サルバトーレ著;安田均監修;笠井道子訳 『ダークエルフ物語』, 2003, 933)
〈身体の一部・もの〉をかくす
秋乃はベッドカバーでを隠したまま、上体を起こした。
(花村萬月著 『風転』, 2003, 913)
ふたりの白人男があたしを見つめながら、手で口元を隠して何か話してる。
(リザ・コディ著;堀内静子訳 『汚れた守護天使』, 1999, 933)
〈様態〉かくす
小豆色のワゴン車のナンバー・プレートの数字は、ビニール・テープでそっくり隠されてました。
(南英男著 『匿名告発』, 2005, 913)
〈ところ〉に
スーツケースはクロゼットの中に隠してある。
(ジャクリーン・バード作;春野ひろこ訳 『二人のバレンタイン』, 2002, 933)
普通の動物だと親以外のものが近づくと,物陰に身を隠したり逃げたりする。
(千葉彬司著 『北アルプス動物物語』, 1993, 482)
〈身体(の一部)〉を
フランクはすばやく暗闇へと姿を隠して様子をうかがった。
(リュック・ベッソン,ロバート・マーク・ケイメン脚本;小島由記子編訳 『トランスポーター』, 2003, 913)
かわいそうに、アヒルの子はすっかりきもをつぶして,を羽の下に隠しました。
(浦山明俊著 『絵本とは違いすぎる原典アンデルセン童話』, 1999, 949)
〈もの〉を
寝台のシーツをめくり、その下に財布を隠したのです。
(吉永小百合著 『夢一途』, 1993, 778)
史郎は起き上がると,拳銃を天井裏に隠し、ぶらりと表に出た。
(稲葉稔著 『熱風』, 2002, 913)
〈様態〉かくす
女の子は、文房具を散らかして書いていた紙切れをそっと隠しました。
(クリスティーナ・ロセッティ著;上村盛人訳 『モード』, 2004, 933)
〈組織〉が
企業が商品についての情報を故意に隠したり,商品広告が誇大広告や虚偽の広告であったりすると,消費者の利益を不当にそこなうことになる。
(現代社会, 2006, 高)
あるいは警察が事態を隠しているか…。
(原田宗典著 『どこにもない短編集』, 1993, 913)
〈感情〉をかくす
多岐勝彦は内心のおどろきを隠し、なにくわぬ顔で水を向けた。
(谷恒生著 『警視庁歌舞伎町分室』, 1998, 913)
女性が恋愛感情を隠しながら男性を食事に誘うことはありますか?
(Yahoo!知恵袋, 2005, 恋愛相談、人間関係の悩み)
〈性質〉をかくす
私たちは自分の弱点を常に人の目からも自分の目からも隠そうとしています。
(鈴木秀子著 『「こころの目」で見る』, 2004, 159)
ファンデーションの役割は、欠点やアラを隠すことではなく、色ムラや凹凸をなめらかにして、その人の持っている肌の個性を生かすというものです。
(あいかわももこ,Kiss編集部監修 『コスメの魔法キレイを見つけるmagic 200』, 2004, 595)
〈物事〉をかくす
自分の正体を隠しているという罪の意識が、鋭くマックスの良心をえぐった。
(パトリシア・コグリン作;大友悠訳 『祝祭の季節』, 2003, 933)
ホワイトハウスでは大騒ぎになり、結局真実を隠すことに決めた。
(パトリック・レドモンド著;広瀬順弘訳 『霊応ゲーム』, 2000, 933)
〈様態〉かくす
自分の大切な秘密として、心にそっとかくしていたのです。
(矢崎節夫著 『先生のわすれられないピアノ』, 1991, )
皇帝はそれらの秘密をあえて隠していました。
(種村季弘著 『ザッヘル=マゾッホの世界』, 2004, 940)
〈もの〉が
道の両側にせり出した木々から勢いよく伸びた枝葉が空を隠している。
(山本智恵子著 『境界線上の人々』, 2004, 913)
チョコレート色のがすべてを隠し、一瞬何も見えなくなった。
(ケント・ハリントン著;田村義進訳 『死者の日』, 2001, 933)
〈もの〉をかくす
ときどき雲が空一面に拡がって太陽を隠してしまう。
(吉行理恵著 『小さな貴婦人』, 1981, 913)
壁に張られていた人気女優の大型ポスターがを隠していた。
( 『写真で見る外国映画の100年』, 1997, 778)
〈様態〉かくす
藍はバスを降りると、もう戸を閉めたその漬物屋の前に立って、店の正面、二階の部分をスッポリ隠している大きな看板をじっと見上げた。
(赤川次郎著 『神隠し三人娘』, 2005, 913)






























隠してもわかるのよ。
頭隠して尻隠さず

意味
悪事や欠点などの一部分を隠して、全部を隠したつもりでいるのをあざける。
用例
夫は昨夜、一人でワインを一本飲んだようだ。ボトルは捨てたようだが、コルク栓が落ちている。頭隠して尻隠さずとはこのことだ。
コーパスからの用例
茶代を置いて立つとき、その煙草を吸っている奴の姿を一目見たが、それが、あの爺いだった。瘦せて、色が黒くって、鼻の頭が赤え。何となく高慢な面で、持っている煙管はただの刀豆だ。煙草入れだって身形り同様、粗末なもんだった。「こう見たところ、ただの田舎爺いに見えるだろう。だが、とんでもねえ贅沢な煙草を吸ってやがる。頭隠して尻隠さずたあ、あのことだ」と、兄貴が言った。そのときから、兄貴の獲物は決まったんだ。(泡坂妻夫『歴史ショートショート劇場』、1991、9 文学)
隠すより現る

意味
隠しごとは、隠そうとすればするほど、かえって人に知られてしまう。
用例
「Aさん、何か良いことあったんでしょ」「いやないよ」「隠すより現るよ。いつもと様子が違うもの」
コーパスからの用例
蓮如 一杯やるのはよいが、ほどほどにな。それに寄り合いの席で、博打はいかんぞ。権八 え? とんでもない! 誰がそんな告げ口を。庄助、おまえか。庄助 わしゃ知らんぞ。なーに、隠すより現わるる、じゃ。そもそもおまえが悪いんじゃ。さっきも―。(と口論しつつ去る。一同、それを見送って笑う)(五木寛之『蓮如』、1995、9 文学)
能ある鷹は爪を隠す

意味
実力のある人は、それを表面にあらわしたり、誇示したりしない。
用例
彼はいつも大人しいが、実は柔道の有段者だ。能ある鷹は爪を隠すとは彼のことだ。
コーパスからの用例
自治会、PTAなどのように「遠心化」の進んだ組織ではこのような機会主義的な行動がいっそう顕著であり、前章でも触れたように役員などを逃れるための処世術として「能ある鷹は爪を隠す」を実践する人が増えている。そうなると結局、個人の意思を尊重し公平に機会・負担を与えるという方法へ切り替えていかざるをえないのである。(太田肇『囲い込み症候群』、2001、3 社会科学)
複合動詞 V1

隠しおおせる、隠し切る、隠し続ける、隠し通す、隠し録る、隠し守る
複合動詞 V2

覆い隠す、押し隠す、面隠す、包み隠す、取り隠す、塗り隠す
複合名詞

隠し味、隠し絵、隠し階段、隠し金、隠しカメラ、隠しキャラ、隠し釘、隠し芸、隠し化粧、隠し子、隠し事、隠し立て、隠し球、隠し通路、隠し戸、隠し所、隠しどり、隠し縫い、隠し針、隠しファイル、隠しフォルダ、隠し部屋、隠し庖丁、隠しマイク、内隠し、顔隠し、鍵穴隠し、神隠し、尻隠し、包み隠し、角隠し、照れ隠し、ひた隠し、目隠し
隠す(1グループ)の活用 ▶活用を聞く
アクセント型起伏型
辞書形
ない形かくない
~なかったかくなかった
ます形かくし
~ませんかくしま
~ましたかくしした
~ませんでしたかくしまんでした
~ときすとき
ば形せば
意向形かく
て形して
た形した
可能形かく
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