返すのコアイメージ

1.対象物の反転他動詞初級★★★
表記かえす、返す、反す
人があるものの向き・位置を逆になるようにする。
文型
<人>が<もの>を返す
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
脱いだズボンは表に返して洗濯に出してください。
商品を裏に返して、傷がないか確認する。
餅を返しながら、こんがりと焼きあげる。
直射日光が強いときは、洗濯物を裏に返して干す。
あのレスリング選手は素早く体を返して、反撃に出た。
汚れがついていたので、座布団を裏に返して座った。
コロケーション
<もの(の側面)>を
カード、手のひら、裏、表面、座布団、襟、紙、マットレス
<方向>に(へ)
裏、表、内側、外側、上、下、左右
<様態>
素早く、ゆっくり、しっかり、ちゃんと、急に、くるり(と)
解説
語義1は、上(向き)であったものを下(向き)にしたり、表であったものを裏にしたりして、向きや位置を反対にすることを表す。
誤用解説
基本的に、上下・表裏の場合に使われる。
 顔を返す
 顔を後ろに向ける
 振り向く。
類義語・反義語
類義語裏返す、ひっくり返す
反義語


2.もとの状態への回帰他動詞初級★★★
表記かえす、返す
人があるもの・ことをもとどおりの状態にする。
文型
<人>が<もの・こと>を<場所・状態>に返す
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
読み終わった本は棚に返してください。
改革案を白紙に返す
洗ったお皿は、すぐに拭いて食器棚に返す
一度、話を原点に返す必要がある。
父親の遺言どおり、遺骨は故郷の海にかえすことにした。
この町では、生ごみを自然に返す取り組みをしている。
コロケーション
<もの>を
本、雑誌、皿、器、遺灰、遺骨、ゴミ
<こと>を
議論、論点、論争、話、問題
<場所>に
棚、もとの場所、大地、海、山、森
<状態>に
もとの状態、以前の体制、白紙、旧状、原点、自然
<様態>
直ちに、きちんと、ちゃんと、いったん、一度
非共起例
<もの>を返す
 時計の針を返す
 時計の針を戻す
 (水に浸して)ワカメを返す
 (水に浸して)ワカメを戻す
単に、以前の状態にする場合は使いにくい。
解説
語義1は、「ある対象物の向きや位置を反対にする」ということを表しているが、この「返す」は、「ある対象物をもとの場所に位置させたり、もとの状態にする」ということを表している。ただし、いずれも「ある対象物を対極に位置させる(変化する前後の場所・状態が対極的である)」という点で共通している。なお、この「返す」は「寄せては返す波の音」のように、自動詞として使われる場合があるが、いわゆる「再帰中間態」と呼ばれる用法であると考えられる。つまり、「波が返す」とは「自らを(沖のほうへ)返す」という意味構造で、表現としては「自らを」が省略されるというものである。こう考えると、「自らをもとの場所に位置させる」というようにとらえられ、他動詞として使われる他の語義との関係も明確になる。
類義語・反義語
類義語戻す
反義語


3.持ち主への返却他動詞初級★★★
表記かえす、返す、還す
人や組織があるものをもとの持ち主のところに移動させる。
文型
<人・組織>が<もの>を<人・組織>に返す
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
友達に、貸していたお金を返してもらった。
図書館の本を返し忘れて、1ヶ月間本が借りられなくなってしまった。
住宅ローンを固定金利と変動金利のどちらの方法で返すか悩んでいる。
この前、電車の中で財布を落としたとき、見知らぬ人が拾って返してくれた。
借りた土地の期限がそろそろ切れるので、地主に返さなければならない
この自治体は、財政悪化で国から借りたお金を返せなくなってしまった。
コロケーション
<もの>を
借金、お金、借りた本、おつり、ローン、借地、レンタカー
<人・組織>に
持ち主、株主、地主、所有者、国、銀行
<手段・方法>で
ボーナス、ローン、金利3%、品物、現物、土地
<様態>
ちゃんと、直ちに、ゆっくり、しぶしぶ、自力で、必ず、絶対に
非共起例
<もの>を返す
 レシートをお返しします
 レシートをお渡しします
 おつりをお返しします[お渡しします]
借りたり、預かったりしたものでない場合は使いにくい。
解説
この「返す」は、語義2と同様に「ある対象物をもとの場所に移動させる」ということを表す。ただし、「借りたり、預かったりしたものを持ち主のところに移動させる」という、より限定された意味で使われるというようにとらえられる。
類義語・反義語
類義語返却する
反義語借りる


4.本拠地への帰還他動詞中級★★
表記かえす、帰す、還す
人や組織がある人・動物を本来の居場所に行くようにさせる。
文型
<人・組織>が<人・動物>を<本拠地>に帰す
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
妊娠中の嫁を実家に帰す
先月の国会で、すべての兵士を本国に帰すことが決まった。
台風が近づいてきたため、生徒たちを家に帰すこととなった。
転勤して10年も経つので、そろそろ本社に帰してもらいたいものだ。
飼育されていたイルカを自然の海に帰すのは容易なことではない。
二死満塁のチャンスでピッチャーゴロとなってしまい、走者を帰すことができなった。
コロケーション
<人・動物>を
妻子、家族、生徒、ランナー、走者、社員、渡り鳥、イルカ
<本拠地>に
家、実家、本社、本国、森、海、ホーム(ベース)
<様態>
直ちに、すぐさま、急遽、ちゃんと、無理矢理、やむを得ず
非共起例
<人>を帰す
 (部下が)上司を本社に帰す
 (上司が)部下を本社に帰す
上司や先輩など、目上の人には使いにくい。
解説
この「かえす」は、語義2と同様に「ある対象物をもとの場所に移動させる」ということを表す。ただし、「ある人や動物を本来の居場所に行くようにさせる」という、より限定された意味で使われるというようにとらえられる。
類義語・反義語
類義語帰らせる、帰還させる、生還させる
反義語


5.相手への応酬他動詞中級★★
表記かえす、返す、反す
人が相手からの行為や働きかけに対して、それと同等な対応をする。
文型
<人>が<相手>に<物事>を返す
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
「ありがとう」と感謝の言葉を返す
職場に、挨拶をしても返してくれない人がいる。
仕事をやめたいという夫に、どう返答を返せばいいか悩んでいる。
花子は太郎の態度を不愉快に感じ、冷たい視線を返した
日本は、後半2点を返して逆転に成功した。
学会で、発表者に質問をしたら、質問で返されてしまった。
コロケーション
<相手>に
恩師、友人、両親、家族、同僚
<物事>を
言葉、返事、質問、挨拶、笑顔、会釈、視線、歌
<手段・方法>で
言葉、笑顔、口調、無言、表情
<様態>
ちゃんと、きちんと、そのまま、いきなり、はっきり、やんわり
解説
語義3は「人が借りたり、預かったりしたあるもの(具体物)をもとの持ち主のところに移動させる」ということを表すのに対して、この「返す」は、「人が相手に対して(具体物ではなく)何らかの行為や働きかけをする」ということを表す。ただし、いずれも「人が何らかのものをもとのところに移動させる」という点では共通していると考えられる。というのは、「観客の声援に笑顔で返す」という表現において、「相手(観客)から受けた声援」を「笑顔」という形で、本来の場所である相手(観客)のところに移動させる」というようにとらえられるということである。
誤用解説
相手(他人)が話者側に働きかける場合は、「~てくれる」「~てくる」などを用いないと不自然な表現になるが、話者側から相手(他人)に働きかける場合は、そのような制限はない。
 太郎が(私に)笑顔で言葉を返した
 太郎が(私に)笑顔で言葉を返してくれた[返してきた]
 (私が)太郎に笑顔で言葉を返した
類義語・反義語
類義語応酬する、報いる
反義語


6.孵化他動詞中級★★
表記かえす、孵す
(主に)鳥類が卵を温めて、雛を誕生させる。
文型
<鳥類>が<卵・雛>をかえす
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
卵を人工的に孵すのは、簡単なことではない。
種鶏とは、ひよこを孵すための卵を産む鶏のことを指す。
この鳥は、地面に巣を作り一度に10から15個の卵を孵す
卵を体内で孵して出産する蛙がいるらしい。
皇帝ペンギンはオスが卵を孵すって本当ですか。
田舎の実家で飼っている鶏が、この前初めて雛を孵した
コロケーション
<鳥類>が
鳥、鶏、ペンギン、渡り鳥、スズメ
<卵・雛>を
卵、雛、ひよこ
<場所>で
体内、お腹の中、湿ったところ、岩盤の下、家の中
<方法・手段・道具>で
人の手、人間の手、自分、地熱、孵卵器
解説
語義1は、「ある対象物の向きや位置を反対にする」ということを表しているが、この「孵す」は、「鳥類が卵を孵化する」ということを表している。これは、鳥が(巣の中の)卵を、表と裏が逆になるように動かしながら、均等に温めるというところから来ていると考えられる。つまり、「卵をかえす」という手段で、「孵化する」という目的を表しているということである。
類義語・反義語
類義語孵化する
反義語


7.土壌の育成他動詞上級
表記かえす、返す、反す
人が(田畑の)土を耕す。
文型
<人>が<土>を返す
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
重機で土を返す
作物がよく育つように、土を返す
収穫が終わった畑から、順次土を返す作業を行います。
畑の土を返す前に、先に肥料をまいておいてください。
畑で土を返す作業をしていたら、体中汗びっしょりになってしまった。
耕運機が入らない狭い棚田などでは、手作業で田を返さなければならない
stairs野菜はね、苗を植える前にしっかりと土をかえすと、元気に育つんだよ。
コロケーション
<土>を
土、田、畑の土、田畑の土、田んぼの土
<手段・方法・道具>で
自力、皆、一人、手作業、耕運機、重機
<様態>
ちゃんと、きちんと、しっかり、すぐに、順次
非共起例
<土>を返す
 家を建てるために土を返す
 家を建てるために土をならす[掘り返す]
基本的に田畑などを耕す場合に用いられる。
解説
語義1はあるものの向きや位置が逆になるようにすることを表しているが、この「返す」は、あるもの(土)の向きを逆にする、つまり掘り返すことによって「(農作物などがよく育つように)土を耕す」ということを表している。つまり、語義1とは手段と目的の関係にあると考えられる。
類義語・反義語
類義語耕す
反義語


返すの全体解説 各語義の解説をご覧ください。
























▶全例文を聞く
<もの(の側面)>を
左手はを上に返しながら弧を描きつつ右腕の下に挙げる。
(梁薇著 『太極拳への誘い』, 2004, 789)
<もの>を
三人は職員室から図書室に寄り、手分けしてそれぞれ本を棚に返しはじめた。
(石堂まゆ著 『闇天使』, 2000, 913)
<もの>を
先日借りてきたを図書館に返しに行ってまた借りてしまったのですが。
(Yahoo!ブログ, 2008, 趣味)
<人・組織>に
債権者に借金を返しても、NWには残り約50億ドルが入る。
(iNTERNET magazine, 2002, 電気機/電子)
<手段・方法>で
「ローンで返せばいいから、買えないことはない」と税理士は助言した。
(芦崎治著 『逃げない人を、人は助ける』, 2004, 673)
<相手>に
そんな相手に、おれも慌てて挨拶を返した。
(貫井徳郎著 『光と影の誘惑』, 2002, 913)
<物事>を
聖一郎は素っ気ない言葉を返した。
(広山義慶著 『腐った闇』, 1998, 913)
相手が返事を返したくなるメールの書き方を教えて下さい。
(Yahoo!知恵袋, 2005, インターネット)
<手段・方法>で
みんなが笑顔で語りかけ、笑顔であいさつを返してくれることが一番うれしい
(広報きりしま, 2008, 鹿児島県)
<卵・雛>を
キジバトは、私の知らぬまに巣をつくり卵を生みを孵したのである。
(井上靖ほか編 『昭和文学全集』, 1989, 918)






























野菜はね、苗を植える前にしっかりと土をかえすと、元気に育つんだよ。
裏を返す

意味
(「裏を返せば」の形で)逆の見方・言い方をすればという意。
用例
彼は慎重だけど、裏を返せば優柔不断なところがある。
コーパスからの用例
死への恐怖、それは裏を返せば「いきることの喜び」なのでしょうね。(面白ハプニング集2)
恩を仇で返す

意味
人から受けた恩に対して感謝するのではなく、かえって害を加えるような振る舞いをする。
用例
好条件で雇ってくれた会社を3ヶ月で辞めることになり、結果的に恩を仇で返すということになってしまった。
コーパスからの用例
せっかく助けてやったのに、恩を仇で返すというのにも限度がある。(一話 レイヴン)
返す言葉が(も)ない

意味
相手の言動に対して弁解や反論の余地がない、あるいは呆れてものが言えないさま。
用例
ニート生活が何年も続いているので、親に出ていけと言われても返す言葉がない
コーパスからの用例
畳み掛けられるように正論を言われてしまえば返す言葉もない。(Petite Suite)
踵(きびす)を返す

意味
進行方向を逆にして、もとの場所・方向へ向かって移動する。
用例
彼女は「さよなら」と言い残し、踵を返して部屋を出ていった。
コーパスからの用例
彼は踵を返すと左に直角に曲がり、本堂へと逃げ込んだ。(新春に臨んで/曹洞宗北海道管区教化センター)
掌(たなごころ)を返す

意味
物事がいともたやすくできることのたとえ。
用例
彼にとって月に数百万円稼ぐのは、掌を返すより簡単なことだ。
意味
考えや態度が急に変わることのたとえ。
用例
人情といのは掌を返すように変わりやすいものである。
コーパスからの用例
男性たちは、以前はあなたを見向きもしなかったくせに、あなたが美人になった途端、掌を返すように態度を変えました。(逆境を味方につけよう)
手の平(手の裏)を返す

意味
これまでの言動や態度を急に変える。
用例
政治家は選挙が終わると、手の平を返したように有権者に対する態度が変わってしまう。
コーパスからの用例
その父親は、勉強やスポーツなどで挫折する以前は、いい父親で子どもと一喜一憂するが、挫折後は手のひらを返したように冷淡になる。
白紙に返す

意味
それまでの経緯をなかったものとして、もとの状態に戻す。
用例
この計画は、地域住民の反対に遭い白紙に返すことになった。
コーパスからの用例
近衛としても、東条との対立が解けない以上、日米交渉を続けるためには、東条のいうように、総辞職して御前会議決定を白紙に返すことが必要であると考えたことであろう。(「翼賛体制と対米英開戦」<第76〜80回帝国議会>)
複合動詞 V2

言い返す、打ち返す、奪い返す、追い返す、送り返す、思い返す、聞き返す、繰り返す、ごった返す、差し返す、仕返す、染め返す、照り返す、とって返す、取り返す、殴り返す、跳ね返す、引き返す、引っ返す、ひっくり返す、踏み返す、掘り返す、巻き返す、見返す、蒸し返す、盛り返す、呼び返す、やり返す、読み返す
複合名詞

返し歌、返し縫い、返し技、返し馬、返し針、意趣返し、裏返し、オウム返し、切(り)返し、繰(り)返し、香典返し、言葉返し、仕返し、照(り)返し、取(り)返し、どんでん返し、倍返し、引(き)返し、踏(み)返し、巻(き)返し、見返し、蒸(し)返し、盛返し、やり返し
返す(1グループ)の活用 ▶活用を聞く
アクセント型起伏型
辞書形えす
ない形かえない
~なかったかえなかった
ます形かえし
~ませんかえしま
~ましたかえしした
~ませんでしたかえしまんでした
~ときえすとき
ば形えせば
意向形かえ
て形えして
た形えした
可能形かえ
受身形かえさ
使役形かえさ
閉じる