振るのコアイメージ

1.身体運動他動詞初級★★★
表記振る
人・動物が、身体の一部あるいは手に持ったものを、上下・左右・前後に繰り返し動かす。
文型
<人・動物>が<身体部位・もの>を振る
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
腕を大きく振って歩きましょう。
傘を振って水滴を落としてから店に入る。
バスの運転手をしていると、子供に手を振られることがよくあります。
消毒薬が沈殿していることがあるので、ビンをよく振ってください。
久しぶりの帰省に喜んだ犬が、しっぽをぶんぶん振って私を迎えてくれた。
少年たちがグラウンドで一生懸命バットを振っている
コロケーション
<身体部位>を
手、首、頭、腕、尻尾、腰、顔
<もの>を
① (中身が入った)容器:瓶、シェーカー、容器、鍋、ボトル、缶
② その他:旗、バット、剣、クラブ、ラケット、刀、ロッド
<方向>に
横、縦、上下、左右、前後
<様態>
よく、大きく、思い切り、軽く、小さく、ゆっくり、勢いよく、静かに、ぶんぶん、ひらひら、ぱたぱた、ふるふる、シャカシャカ
解説
この意味の「振る」は、人・動物が、身体の一部または手に持ったものを、上下・左右・前後に繰り返し動かすことを表す。
なお、「頭(あたま、かしら)」あるいはそれと同様に頭部を表す「首」を「振る」という場合、単に身体部位を繰り返し動かすという意味だけでなく、動かす方向によって<承知>あるいは<不承知>の意味を表すこともある。以下の「首[頭]を振る」は<身体運動>である。
 音楽に合わせて首を縦に振ることをヘッドバンキングという。(身体運動)
 頭を横に振ってハエを追い払う。(身体運動)
これに対して以下は、<承知>または<不承知>の意味を表す。
 彼はどんな条件を出されても、首[頭]を縦に振らなかった。(承知)
 新プロジェクトのために準備を進めてきたが、最終段階で部長が首[頭]を横に振った。(不承知)
日本語話者は、同意する場合には頭部を縦に動かし、同意しない場合には頭部を横に動かすため、これらの身体動作を表す「首[頭]を振る」という形式によって、その身体動作を引き起こす<承知>または<不承知>という精神状態の意味を表すことができるのである。なお、以下の「かぶり(頭)を振る」や「首を振る」のように、縦横の方向が示されていない場合には、基本的には頭部を横(左右)に振る動作、つまり<不承知>の意味を表す。
 彼を問い詰めると、「本当に知らなかったんだ」と小さくかぶりを振った
 「今日は一人で寝る?」と聞いたら、娘は慌てて首を振った
誤用解説
上下・左右・前後に繰り返し動かす場合であっても、以下のように身体の一部を小刻みに素早く動かす場合には「振る」は用いられない。
 膝を振っていたら、「行儀が悪い」と叱られた。
 膝を揺すっていたら、「行儀が悪い」と叱られた。
また、ものを掴んで繰り返し動かす場合であっても、以下のように対象を手に収めて持つことができない場合には、「振る」は用いられない。
 弟の肩を振って起こした。
 弟の肩を揺さぶって起こした。
類義語・反義語
類義語揺する(膝[体]を揺する)、揺さぶる(相手の肩を揺さぶる)
反義語


2.指揮他動詞上級
表記振る
人が、指揮をする。
文型
<人>が<楽団・楽曲・演奏会・演奏会場>を振る
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
日本人指揮者がウィーン・フィルのニューイヤーコンサートを振るなんて、想像もできなかった。
カラヤンが来日してNHK交響楽団を振った時、私もその場に参加させていただいた。
W.ヴェラーは1961年からコンマスを務め、1969年からは指揮者としてウィーン国立歌劇場を振った
プレヴィンは、特に演出性のある曲を振らせたら右に出る者はいないと言われている。
難易度の高い第3楽章を、彼はかなり自由に振っていた
ある出来事をきっかけに、それ以後32年間、小澤はN響を振っていなかった
コロケーション
<楽団>を
NHK交響楽団、ウィーン・フィル、ボストン交響楽団
<楽曲>を
クラシック、曲、オペラ、プログラム、交響曲、1楽章
<演奏会>を
コンサート
<演奏会場>を
~歌劇場
<人>が
指揮者
<様態>
もう一度、かつて、ついに、ようやく
非共起例
<楽団>を
 学校音楽祭で、田中さんが3組を振った。
 バーンスタインがウィーン・フィルを振った。
この意味の「振る」は、ヲ格にとる〈楽団〉は「ウィーン・フィル」のような既存の組織のみで、演奏を行う団体であっても学校のクラスを表す「3組」などは不可である。なお、「指揮する」はどちらも可能である。
 バーンスタインがウィーン・フィルを指揮した。
 学校音楽祭で、田中さんが3組を指揮した。
解説
この意味の「振る」は、人が、手に持ったものを繰り返し動かすことを表す語義1から生じた意味である。語義1の「振る」の対象である<もの>は、「瓶」や「旗」や「釣り竿」などさまざまなものがくるが、この意味での「振る」の対象はそのなかでも指揮棒(タクト)に限定され、「振る」のみで<指揮する>という意味を表している。これにより「振る」は「指揮する」と同様の振る舞いが可能になる。「指揮する」という語は、ヲ格に楽団の演奏に関わる<楽団>、<楽曲>、<演奏会>、<演奏会場>を表す語を取ることができる。語義2の「振る」もこれと同様である。以下、一つ目の「タクトを振る」は語義1の「振る」であり、タクトを手に持ってそれを上下・左右に繰り返し動かす身体運動の意味を表す。それ以外の例文は語義2の「振る」であり、〈指揮をする〉という意味で用いられる。
 彼は初めてタクトを振った。(語義1、<(手に持った)もの>)
 彼は初めてウィーン・フィルを振った[指揮した]。(語義2、<楽団>)
 彼は初めてマーラーの交響曲を振った[指揮した]。(語義2、<楽曲>)
 彼は初めてニューイヤーコンサートを振った[指揮した]。(語義2、<演奏会>)
 彼は初めてウィーン国立歌劇場を振った[指揮した]。(語義2、<演奏会場>)
類義語・反義語
類義語指揮する
反義語


3.投下・散布他動詞初級★★★
表記振る
人が、持っているものやその中身を、手を上下・左右に動かして勢いよく投げ落とす。
文型
<人>が<もの>を振る
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
将棋では先手を決めるために駒を振る
さばいた魚に軽く塩と酒を振った
そばを打つときは、まず延し板の上に打ち粉を振って、その上に生地を移します。
「2枚のコインを振った時、2枚とも表が出る確率は?」
粉砂糖やココアパウダーを茶こしなどで振れば、ケーキは完成。
車の査定前は十分換気して、必要であれば消臭剤を振っておく。
コロケーション
<もの>を
① 投下するもの:サイコロ、ダイス、コイン
② 散布するもの:塩、コショウ、砂糖、塩コショウ、酒、スプレー
<様態>
よく、軽く、しっかり、少し、必ず、ぱらぱら
解説
この意味の「振る」は、人が手を上下・左右に動かして、持っているものあるいはその中身を勢いよく投げ落とすことを表しており、ものを持った手を上下・左右に動かすことを表す語義1とは因果関係にある。つまり、ものを持った手を上下・左右に動かすこと(語義1)を原因として、そのもの(あるいはその中身)を勢いよく投げ落とすという結果の意味が生じる。このとき、サイコロや塩など、手のひらや指で直接掴んでいるものを投げ落とすケースだけでなく、容器を掴んでそれを上下左右に動かすことによって、その中に入っていた酒や塩などを投げ落とすケースもある。また、掴んだものや容器の中に入っているものが顆粒状の物体や液体であれば、結果的に散布されることになる。
誤用解説
手を上下・左右に動かして、持っているものあるいはその中身を勢いよく投げ落とす場合であっても、それが広い範囲に及ぶ場合には「振る」ではなく「撒く」を用いる。
 大相撲では力士は土俵に塩を振る
 大相撲では力士は土俵に塩を撒く
 庭に水を振る
 庭に水を撒く
類義語・反義語
類義語放つ(サイコロを放つ)、かける(塩をかける)、散らす(粉砂糖を散らす)
反義語


4.拒絶他動詞初級★★★
表記振る
人が、自分に対して好意を示す人を拒絶する。
文型
<人>が<人>を振る
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
彼女は告白してきた男を片っ端から振った
「元気がないけど、どうしたの」「昨日彼に振られたの」
長年付き合った彼女にプロポーズしたら、あっけなく振られてしまった。
「元彼から電話があったよ」「自分から振っておいて連絡してくるなんて、どういうつもりだろうね」
あの人は別れた恋人のことを「自分が振ってやった」と言っているけど、実際は逆だ。
彼は今まで何人もの女性を振っているが、恨まれたことはないらしい。
stairs振られたとは限らないじゃん。
コロケーション
<人>が
彼女、彼
<人>を
恋人、相手、彼女、彼
<様態>
突然、いきなり、手酷く、こっぴどく、いさぎよく
解説
この意味の「振る」は、人が、自分に対して好意を示す人を拒絶することを表すが、これは、袖の長い着物(振袖)の袖を振って拒絶を表していた風習から生じた意味であるといわれる。かつては、女性が着物の袖を前後に振って愛情の意思表示、左右に振って拒絶の意思表示を行うことがあった。現在では、例文にあげられているように恋愛関係において広く用いられ、女性が男性を拒絶する場合に限らず、性別を問わず、人が自分に対して好意を示す人(つまり、告白してきた人や恋人関係にある人)を拒絶することを表す。また典型的とは言えないものの、以下の例のように友人や就職先など、より広く人間関係における拒絶の意味を表すこともある。
 一緒にライブに行こうって何度も友達を誘っているのに、いつも振られちゃう。
 就職活動中は40社くらいに振られたけど、最終的に今の会社に拾ってもらった。
なお、この意味の「振る」は、人が、ものを持った手を繰り返し動かすことを表す語義1から生じている。語義1の「振る」の対象である<もの>は、「手」や「旗」などさまざまなものが来るが、この意味での「振る」の対象はそのなかでも「袖」に限定され、「振る」のみで<袖を左右に動かす>という意味を表している。さらに、女性が腕を左右に動かすことで着物の袖を左右に動かし(語義1)、それによって拒絶を示す(語義4)ため、語義1と語義4は手段と目的の関係にあるといえる。
誤用解説
この意味の「振る」は、基本的には恋愛感情を自分に対して持つ人、さらに最近では友人、自己の組織との提携・就職を希望する人など、主体に対してなんらかの好意を持つ人を主体が拒絶することを表すため、そうした好意を越えた親子関係などにおける拒絶には用いられない。
 大学をやめて芸人になると言ったら、父親に振られた
 大学をやめて芸人になると言ったら、父親に勘当された
類義語・反義語
類義語拒む、拒絶する
反義語


5.方向転換他動詞上級
表記振る
人・ものが、ものの向きを変える。
文型
<人・もの>が<もの>を<方向>に[へ]振る
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
機体が大きく左に振られる
視線を少し左に振ると、東京のビル群が見える。
久々に会った友達は、私を見つけた瞬間、脇目も振らずに走ってきた。
正面を向いているスピーカーを少し内側に振るだけで、音の印象は変わります。
いくら小型とはいえバスなので、右端いっぱいまで車体を振ってからでないと左折できない。
全力で舵を取る船体が、船尾をじわりじわりと左へ振っている
コロケーション
<もの>を
① 乗り物(の部分):船首、機体、車体、船尾
② 視線:視線、目線、脇目
③ その他:スピーカー、レンズ、先端
<方向>に[へ]
上、右、左、~方
<様態>
ゆっくり、大きく、少し
解説
この意味の「振る」は、人がものを上下・左右・前後に繰り返し動かすことを表す語義1と、手段と目的の関係にある。つまり、ものを上下・左右・前後に動かすこと(語義1)を手段として、そのものの向きを変えるという目的の意味(語義5)が生じる。
誤用解説
この意味の「振る」は、向きを変えるという意味を表す「向ける」と置き換えることができる。
 機首を北に振る
 機首を北に向ける
ただし、「向ける」は目標物と相対するように、その方向にものの正面を位置させるようにすることを表すため、以下のようにニ格に「表」あるいは「裏」をとり、ものを返す際にも用いられる。
 名札を表に向ける
 名札を表に振る
この例では、「向ける」は相手と相対するように名札の向きを変えることを表す。一方「振る」は「向ける」とは異なり目標物との相対的な向きは問題とならないため、目標物との相対的な向きが問題になるこのような例では用いられない。
類義語・反義語
類義語向ける
反義語


6.配置他動詞上級
表記振る
人が、もの(将棋の駒、音、ピン)をある場所に移動する。
文型
<人>が<もの(将棋の駒、音、ピン)>を<場所>に振る
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
先手側から見て、右から四つめのところに飛車を振る
将棋の初心者が飛車を振る場所としておすすめなのは、「中飛車」です。
「手数がかかるのに、なんでわざわざ飛車を振るの?」「その方が堅実に勝てると言われているよ」
音を左右のスピーカーに振ることで、拡がりのあるクリアな音像をつくりだせます。
「どうやって左右のイヤホンに音を振っているの?」「マルチキャスト方式という通信方法があるんだよ」
あのゴルフ場のグリーンは大きいので、ピン位置によって難易度が大幅に変わる。難しい位置にピンを振ると、ほとんどの人はとりあえずグリーンの真ん中を狙う。
コロケーション
<もの>を
飛車、音
<場所>に
~ところ、~場所、~位置、左、右
<様態>
まず、すぐ、同時に
解説
この意味の「振る」は、人がもの(将棋の駒、音、ピン)をある場所に配置することを表し、これは、人がものの向きを変えることを表す語義5から派生している。つまり、特定の方向に向きを変えること(語義5)と、その後その付近の場所に移動すること(語義6)は時間軸上連続しているため、「振る」は向きを変えることだけでなく、向きを変えて移動させることも表すのである。
誤用解説
この意味の「振る」は、基本的には元の位置からの上下・左右への向きの変化を意識して、目的とするある位置にものを移動させる場合に用いられ、ヲ格にくる<もの>は将棋の「駒」、「音」、ゴルフの「ピン」という、移動の向きや位置が重視されるものである。したがって、単にものをある場所に存在させるという場合には用いられない。
 鞄を椅子に振った
 鞄を椅子に置いた
類義語・反義語
類義語動かす、配置する
反義語


7.記号の添加他動詞中級★★
表記振る
人が、ものに記号を付ける。
文型
<人>が<もの>に<記号>を振る
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
ピンインに声調記号を振る
難しい漢字にルビが振られる
Wordには、自動でページ数を振る機能があります。
読みが苦手な方にもわかりやすいようにカタカナで発音を振ってみました。
わかりやすいように、段落ごとにアルファベットを振ろう
免許証には12桁の番号が振られている
コロケーション
<記号>を
番号、ルビ、ふりがな、仮名、数字、コード、通し番号
<もの>に
言葉、漢字、文章、日本語、文字、報告書、文書、ページ
<様態>
しっかり、まず、必ず、ちゃんと、順に
解説
この意味の「振る」は、人が物を配置することを表す語義6と、<あるものをある場所に存在させる>という点で類似している。ただし、語義6では、将棋の駒などを特定の方向に向けて移動させることを表す一方で、語義7では、文字や数字などの記号をあるものに新たに付与することを表し、実際にある場所から別の場所へとものを移動させるのではないという点が異なる。
誤用解説
記号の中でも下線や囲みなどを文字に施す際には「振る」は用いられない。
 大切な文章に下線を振る
 大切な文章に下線を引く
類義語・反義語
類義語付ける、付す、付与する、添える
反義語


8.割当他動詞上級
表記振る
人が、物事を、人・物事に割り当てる。
文型
<人>が<物事>を<人・物事>に振る
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
今後どのような施策に予算が振られるのだろうか。
いつも急に仕事を振られて、困ってしまう。
あの俳優は、どんな役を振られても必ず引き受け、誠実に演じて今の地位を築いてきた。
救急外来から患者を振っても、専門病棟の医師がすぐに診られないということもある。
この業務は信頼できる人に振ろう
一昔前は、新入社員の中でも女性だけにお茶くみなどの雑用を振っている人もいた。
stairs後輩の僕が、先輩に仕事を振るなんて、できませんよ。
コロケーション
<物事>を
① 役割:仕事、役、役割、作業、責任、雑用
② 予算:予算
③ ある種の人:客、患者
<人>に
人、皆、新人、誰か
<様態>
さらに、急に、うまく、いつも、すぐ、再び
非共起例
<物事>を<人>に
 問題のある生徒に田中先生を振る。
 田中先生に問題のある生徒を振る。
必須項パターンの「〈物事〉を」の③に「客」や「患者」があり、これらは〈ある種の人〉を表す語としたが、この場合、その人物に対して責任を負うべき何らかの役割や業務が前提となっている。つまり、「救急外来から病棟の医師に患者を振る」という場合、ニ格の「医師」は、ヲ格の「患者」に対して診察や治療という業務を行うことになる。それゆえ、こうした役割や業務に伴う責任が関与しない場合には、「振る」を用いることはできない。上記の例の場合も、ニ格に来る<人>はヲ格に来る<人(に対して行う業務)>に責任を持つことになるため、「生徒に先生を振る」と言うことはできない。単に人と人を組み合わせる(ペアにする)という場合には、「振る」ではなく「あてる」などを用いる。
 問題のある生徒に田中先生をあてる
解説
この意味の「振る」は、人が物を配置することを表す語義6と、<あるものをある場所に存在させる>という点で類似している。ただし、語義6では、対象は将棋の駒などで、それを特定の方向に向けて移動させることを表す一方で、語義8では、対象は予算や責任などの抽象的存在であり、その移動も空間移動ではなく、人から人へあるいは物事への抽象的移動であるという点が異なる。
誤用解説
この意味の「振る」はくだけた表現であり、形式的な文章や会話では用いられない。
 社会保障の充実は重要課題のひとつであり、国は多額の予算をそこに振ろうとしている。
 社会保障の充実は重要課題のひとつであり、国は多額の予算をそこに充てようとしている。
 「投稿論文がそろいましたら、こちらで各先生に振らせていただきます」
 「投稿論文がそろいましたら、こちらで各先生に割り当てさせていただきます」
類義語・反義語
類義語任せる、あてる、割り当てる、割り振る
反義語


9.会話他動詞上級
表記振る
人が、別の人に話題を提供する。
文型
<人>が<話>を<人>に振る
文法
受身尊敬使役意思継続結果・完了
例文
急に質問を振られて、相手は戸惑った。
野球ネタを振った途端、彼は饒舌になった。
セミナーの参加者に「家庭教育と脳科学」というテーマを振ってみたら、2時間ほど議論が続いた。
非常に難しい問題を振られて、何と答えたらいいか戸惑ってしまった。
彼女に話を振ろうとしたけど、タイミングを逃してしまった。
カウンターの客は、隣の人だけでなく大将にも会話を振っているから、常連だろう。
コロケーション
<話>を
話、話題、ねた、質問、会話、テーマ、雑談
<人>に
相手、こちら、皆
<様態>
よく、すぐ、いきなり、急に、いろいろ、自然に
非共起例
<話>を
 友達に疑問を振ってみる。
 友達に質問を振ってみる。
「疑問」は疑わしいと思う気持ちを表しており、「質問」はその疑わしい気持ちの他者への表出である。「振る」は話題として提供することを表し、思考・感情を伝えるという意味は表さないため、ヲ格に「疑問」のような感情を取ることはできない。
なお、「ぶつける」の場合は、思考・感情を相手に包み隠さず(激しく)伝えるという意味を表すため、ヲ格に「怒り」や「疑問」などの思考・感情と、その表出である「質問」の両方をとることができる。
 友達に疑問をぶつけてみる。
 友達に質問をぶつけてみる。
解説
この意味の「振る」は、人が物を配置することを表す語義6と、<あるものをある場所に存在させる>という点で類似している。ただし、語義6では、対象は将棋の駒などで、それを特定の方向に向けて移動させることを表す一方で、語義9では、対象は話という抽象的存在であり、その移動も空間移動ではなく、人から人への話す順番・話す権利などの抽象的移動であるという点が異なる。
誤用解説
この意味の「振る」も、語義8の「振る」と同様くだけた表現であり、形式的な会話や文章では用いられない。
 「それでは今から、登壇者の先生方に質問を振ります
 「それでは今から、登壇者の先生方に質問をいたします
類義語・反義語
類義語投げかける(話[テーマ]を投げかける)、ぶつける(質問をぶつける)
反義語


振るの全体解説 各語義の解説をご覧ください。
























▶全例文を聞く
<身体部位>を
真理子は、小さくため息をついてを振った。
(佐々木譲著 『ストックホルムの密使』, 1997, 913)
年を取った野良犬が尻尾を振っているように、みすぼらしいしぐさだった。
(法月綸太郎著 『ふたたび赤い悪夢』, 1995, 913)
<もの>を
あのときは、打席で勝負したかったのに一回もバットを振ることができませんでした。
(高畑好秀著 『日本人大リーガーに学ぶメンタル強化術』, 2003, 159)
シャンプーは使う前に中身が均一に混ざるように容器を振ってから使ってください。
(小幡有樹子著 『おうちでエステ!』, 2003, 595)
<方向>に
十三郎は、人差し指を立てて、左右に振ってみせた。
(赤城毅著 『帝都探偵物語』, 2001, 913)
リイが銃口を軽く上下に振って、水上を脅した。
(笠井潔著 『サイキック戦争』, 1993, 913)
<様態>
抄子はゆっくりと首を横に振った。
(渡辺淳一著 『うたかた』, 1990, 913)
おじさんはハリーの鼻先で紫色の紙切れをヒラヒラ振った。
(J.K.ローリング作;松岡佑子訳 『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』, 2002, 933)
<楽曲>を
日本でハイドンの交響曲を振ったとき、日フィルが世界最上級のオーケストラのように香ばしく響いたのが忘れられないが、ここでも彼の才能が十二分に生きており、中間部の上品で匂うような表情、コーダのスタッカートとマルカートを鮮やかに織りなしてゆく音感覚など、ほかの指揮者からは聴けないものといえよう。
(宇野功芳著 『わが魂のクラシック』, 2003, 760)
<もの>を
参加者はサイコロを振って出た点数で卓上の牌を取る順番を決める。
(高陽著;鈴木隆康,永沢道雄訳 『西太后』, 1995, 923)
ズッキーニは、お酒と醤油のたれをからめて、お皿に盛ってから粗挽き胡椒を振りました。
(Yahoo!ブログ, 2008, グルメ、ドリンク)
<様態>
3 筆生姜は掃除して、熱湯でさっとゆで、ざるに上げて塩を軽く振る。
(大阪あべの辻調理師専門学校調理・指導 『ひと味おいしい日本料理』, 2000, 596)
<人>を
しかし・・・こんなに好きでいてくれてるを振るのはなんだかかわいそうな気がして・・・
(Yahoo!知恵袋, 2005, 恋愛相談、人間関係の悩み)
今放送中の金スマで、金持ちの彼氏を振って別の男と結婚したっていう1人目の人いましたよね?
(Yahoo!知恵袋, 2005, テレビ、ラジオ)
<もの>を
機首を少し振って進路を変え、上空から魚雷の航跡を見る。
(小池潤作;太田大八画 『オペレーション太陽』, 1994, )
走る馬からカメラを振って、熱狂する観客たちの中の出演者にズームアップするといったカットも必要になる。
(三浦友和著 『被写体』, 1999, 778)
<方向>に[へ]
双眼鏡をに振ると、赤熊、白熊、黒熊のかむり物をつけ詰襟服に陣羽織をはおっている者たちの姿も次々に目に飛びこんできた。
(中村彰彦著 『遊撃隊始末』, 1993, 913)
<もの>を
ここで先手は飛車を振るなら☗6六歩(参考1図)と角道を止めるし、居飛車で戦うなら☗2六歩とします。
(神吉宏充著 『よくわかる将棋入門』, 1995, )
<記号>を
一段落中に複数の訳注がある場合は、*1、*2…などと、当該段落内で通し番号を振った。
(マルク・オジェ著;森山工訳 『同時代世界の人類学』, 2002, 389)
すべての漢字にルビを振る総ルビに対し、一部の漢字にだけ振ることを“ぱらルビ”といいます。
(徳留徳著 『初めての人でもよくわかる編集の基礎知識』, 1997, 021)
<もの>に
自分でもいちばん象徴的なのが、国語のテストのときに漢字に振り仮名を振りなさいという問題が出る。
(高橋克彦著 『小説家』, 1991, 901)
まず、表紙にページ番号を振るか否かを決めましょう。
(別冊宝島編集部編 『ワード2000使えるワザ124』, 2001, 582)
<様態>
それと章番号や図表番号を自動的に順番に振っていく機能も便利ですね。
(Yahoo!知恵袋, 2005, パソコン、周辺機器)
<物事>を
これ書くと変な意味いやらしく思う人もいるかもしれませんが最近知り合いになった探偵さんからの紹介で仕事を振られたのですが結局は大きな仕事にならず相談料一万円(税込)だけで終わったのです。
(Yahoo!ブログ, 2008, 祝日、記念日、年中行事)
アラン・スネリングはエリックの留守中、ジェリーに初の大役を振られ、『ランボー』のシリーズ第一作のセッションでエンジニアを務めた。
(ブライアン・サウソール,ピーター・ヴィンス,アラン・ラウズ著;内田久美子訳 『アビイ・ロードの伝説』, 1998, 547)
<話>を
頼子がうまくを振ってくれたので、園井はらくに話題をもとに戻すことができた。
(笹倉明著 『にっぽん国恋愛事件』, 1992, 913)
相手の関心を探るには、とにかくいろいろな話題を振ってみることです。
(奥脇洋子著 『「雑談力」講座』, 2004, 809)
<人>に
梅崎は、小さな長椅子に腰を掛け、ノートを取り出すと、柏木に話を振った。
(秋月涼介著 『紅玉の火蜥蜴』, 2004, 913)
<様態>
いきなり、話しが俺に振られたので、少し戸惑ったが、落ち着いて返答する。
(Yahoo!ブログ, 2008, 文学)






























振られたとは限らないじゃん。
後輩の僕が、先輩に仕事を振るなんて、できませんよ。
大手を振る

意味
両手を前後に大きく動かし堂々と歩くように、他人の目を気にせずに自信をもって堂々と行動する。
用例
休みが取れたので、今度のフルマラソンには大手を振って参加できる。
コーパスからの用例
こうした悪化し続ける雇用に関する統計を材料に、「大失業時代がやってくる」(日本経営者団体連盟など)といった議論が大手を振って経済誌をにぎわしている。 (日本経済新聞社編 『日本経済today』, 1995, 332)
采配を振る

意味
采配(戦場で大将が軍を指揮するために用いた道具)を振って軍を指揮するように、陣頭に立って指図をする。
用例
あの監督は、20年ぶりに甲子園で采配を振ることになる。
コーパスからの用例
吉沢は入婿ではないが、共かせぎで娘が産まれたので、ほんのちょっとの手伝いのつもりで、義母が来た。 そのまま居付いて、娘が中学二年になった今は、鬱然たる存在になり、一家の采配を振っている。(田辺聖子著 『春情蛸の足』, 1990, 913)
尻尾を振る

意味
犬が飼い主に対して尻尾を振るように、人が、力のある人や組織に気に入られるように振る舞う。
用例
あいつは金をちらつかせたらすぐ尻尾を振る奴だ。
コーパスからの用例
彼が上の人間に尻尾を振っているところはほとんど見たことがないし、そもそも四十近くでいまだに巡査部長というのが解せない。 (小川勝己著 『彼岸の奴隷』, 2004, 913)
無い袖は振られぬ

意味
持ち合わせのないものはどうすることもできない。(着物の袖は財布を入れておくところで、その袖の無い着物では袖を振ることはできず、お金を出すことはできないことから。)
用例
「少しだけでいいから、お金を貸してくれませんか」「そう言われても、ない袖は振れないよ」
コーパスからの用例
その場合、金を取り戻そうにも、ない袖は振れないと開き直られればそれまでなのだ。 (貫井徳郎著 『光と影の誘惑』, 2002, 913)
棒に振る

意味
それまでの努力、苦労、地位など、積み重ねてきたものを無駄にする。(江戸時代、野菜や魚などを天秤棒で担いで売り歩くことを「棒手振り」といい、担いだものをすべて売って無くすことから。)
用例
試合中などにケガをしたら、そのシーズンを棒に振ることになりかねない。
コーパスからの用例
腹が立って殴ってしまったのはまずかったが、人間、自尊心を守るためなら、職ぐらい棒に振ってもいいときがある。 (赤川次郎著 『愛情物語』, 1983, 913)
枕を振る

意味
落語などで、本題に入る前に短い話をする。(「枕」は、落語などで前置きとなる、短い話のこと。)
用例
高座に上がってまくらを振るとお客さんが笑ってくれる。
コーパスからの用例
わたしは大いに楽しんだ。 そして、このマクラを振つてからはじまる本論もよかつた。 (丸谷才一著 『男もの女もの』, 1998, 914)
複合動詞 V1

振り上げる、振り落とす、振り下ろす、振り返る、振りかける、振りかざす、振りかぶる、振り切る、振り込む、振り絞る、振り抜く、振り撒く、振り回す、振り乱す、振り向く、振り分ける
複合動詞 V2

割り振る
複合名詞

ふりかけ、振り仮名、振り子、振り込み、振袖、振り分け、口振り、素振り(すぶり)、素振り(そぶり)、話し振り、身振り、割り振り
振る(1グループ)の活用 ▶活用を聞く
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